歌舞伎・能 外国人客にらむ 音声ガイドや英語公演
歌舞伎の劇場や能楽堂が、外国人客のためのサービスを充実させている。多言語の音声ガイドを用意したり、英語の解説つき公演を増やしたり。東京五輪を視野に入れた試行錯誤が続く。
国立劇場(東京・半蔵門)のチケット売り場。一般的な歌舞伎や文楽の公演案内のチラシの間に、日本語のほとんど無いものが並ぶようになった。今月16日の「Discover KABUKI―外国人のための歌舞伎鑑賞教室」など、外国人向けに英語などで書かれたチラシだ。
留学生や観光客のニーズに応えるため、国立劇場は「多言語化」に少しずつ取り組んでいる。毎年6月と7月に日本の高校生向けに開催している「歌舞伎鑑賞教室」のうち1回を、英語を交えた公演にしたのは一昨年。音声ガイドには英語のほかに中国語と韓国語を用意した。
昨年は同じ鑑賞教室の2回を外国人向けとし、「魚屋宗五郎」の公演に英語の字幕をつけた。これには約60の国・地域から外国人客が訪れ、アンケートでは「物語の理解」が「できた」との回答が90%を超えた。
今月の歌舞伎鑑賞教室でも英語による解説と、中村錦之助主演「毛抜」を16日に2回、外国人向けに上演。音声ガイドにはスペイン語を追加したほか、17~24日の日本人向け「歌舞伎鑑賞教室」でも日本語を含め5カ国語の音声ガイドを利用できるようにした。
東京五輪見据え
国立劇場などを運営する日本芸術文化振興会の大和田文雄理事は「外国から日本への注目が集まる2020年の東京五輪で国立劇場として何ができるか、鑑賞教室の場で試行している面がある。どんな演目に人気があるか。また劇場をめぐる外国人客の行動パターンなど情報を積み上げて、五輪後にも生かせるノウハウを得たい」と話す。
音声ガイドは事前に録音したものを流すが、舞台進行に合わせて逐次操作が必要。そのため専門知識のある人手が必要だという。こうした技術や経験を蓄積していく必要もある。
気楽に味わう
同じ国立の劇場では、国立能楽堂(東京・千駄ケ谷)でも今月23日に外国人向けの公演を開催。英語による解説をした上で、荒野の一軒家で糸をつむぐ女が鬼に化けて山伏を襲う能「黒塚」と、主人の留守中に家来が砂糖を盗み食う狂言「附子(ぶす)」を上演する。同日は本番前に、英語の能楽ワークショップも開催する予定だ。
東京以外では、大阪市の国立文楽劇場が今月17日に文楽の、沖縄県浦添市の国立劇場おきなわでも11月に組踊(沖縄の伝統舞踊)の外国人向け公演を予定している。
民間の施設でも新たな動きが出ている。多くの外国人観光客であふれる東京・銀座に4月オープンした観世能楽堂を使って、江戸文化に外国人に気楽に触れてもらう公演が始まった。「銀座花鏡 夏のにぎわい―隅田川」と銘打ち、英語の解説つきで日本舞踊や端唄(はうた)、囃子(はやし)などをダイジェストで数分ずつ披露する舞台だ。「江戸庶民に独特の生活観を感じてほしい」(エグゼクティブプロデューサーの織田紘二氏)。
7月までにあと8公演を予定している。能舞台で能狂言以外の伝統芸能を鑑賞できる機会は、日本人にとっても珍しいだろう。
これらに一歩先んじた試みといえるのが、大阪市の山本能楽堂だ。能のほか文楽や上方落語などから毎回3~4ジャンルを披露する「初心者のための上方伝統芸能ナイト」で英語限定の公演を始めたのが2011年。9月~来年3月に開く計4公演は文化庁の助成金を得て無料化する。
同能楽堂の山本佳誌枝・事務局長は「最近は演者もどうしたら外国人に受けるかを意識して工夫している。言葉の壁を越えて日本の伝統文化を楽しめる環境づくりに今後も一層力を尽くしたい」と話している。
(文化部 小山雄嗣)
[日本経済新聞夕刊2017年6月12日付]
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