『20センチュリー・ウーマン』戦中派の母
1979年といえば何を思い出しますか? 世代によって答は様々だろうが、この映画の中の出来事を懐かしむ人は多かろう。
カリフォルニアの小都市に住むドロシア(アネット・ベニング)は55歳。大恐慌時代に育ち、第2次大戦中は空軍パイロットにあこがれ、学校をやめて働いた。以来、自立した女として生き、40歳で産んだ息子ジェイミーも独りで育てた。
ドロシアの家に間借りするアビー(グレタ・ガーウィグ)は24歳。ニューヨークで写真家を目指していたが、子宮を患って故郷に戻った。ジェイミーの早熟な幼なじみジュリー(エル・ファニング)は17歳。自分の家族になじめず、夜毎ジェイミーの部屋に忍び込む。
3人の自由な女に囲まれて、ジェイミーは15歳の夏を過ごす。強い意志をもって生きてきた戦中派のドロシアは、思春期を迎えた息子の先行きが心配だ。彼が夢中なパンクロックは理解できないが、型にはまらずに生きるアビーとジュリーは信頼しており、2人に息子の自立の手助けを頼む。
ヒッピー運動が終息し、パンクが流行した時代だ。息子はフェミニズムの本を読む。郊外スーパーの駐車場で、母の旧式フォードが炎上する。カーター大統領が「国民は人生の意義を見いだせない。国は歴史の岐路にある」と演説する。
自身の母をモデルにドロシアを描いた66年生まれのマイク・ミルズ監督には、79年が時代の分水嶺に見えるようだ。大戦後の良き時代がベトナム戦争の終結を経て完全に終わり、レーガンから現政権まで続く新自由主義の時代が始まる。中産階級の没落の始まりだ。
20世紀を生き抜いた女ドロシアは混沌の時代を予感しつつ、何を息子に伝えようとしたのか。息子らは彼女から何を学び取ったのか。その不可能性と可能性の両方が映っている。そして、ほのかな希望が胸を打つ。1時間59分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2017年6月2日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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