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サンショウウオ・山菜… 福島の秘境に「山人料理」 主食はソバ、村人の知恵

2017/3/1 日本経済新聞 夕刊

滋養強壮の効果があるというサンショウウオのからあげ(右下)。左上はそば田楽、左下は豆腐田楽

 新潟、群馬、栃木の県境と接する福島県檜枝岐村(ひのえまたむら)。尾瀬国立公園の玄関口で、江戸期から続く伝統の農村歌舞伎でも有名なこの地で作り継がれる名物料理がある。「山人(やもーど)料理」だ。山菜やキノコ、川魚など山川の恵みをふんだんに使った料理の数々は、見た目は地味だが滋味に富む。専ら地元の旅館や民宿で提供され、現地に行かなければありつけない秘境の味だ。

◇     ◇

 檜枝岐村の大きな特徴の一つが、その地勢。村の中心部の標高は約940メートルで四方を標高2000メートル級の山々に囲まれている。今冬は2メートル近い積雪にも見舞われた。厳しい環境で稲作ができないため、村人はソバを主食とし、地元産品で料理をおいしく食べる方法を模索してきた。

沢に「ズウ」と呼ばれる竹製のわなを仕掛けて取るハコネサンショウウオ。村では他人の漁場には入らないという暗黙のルールが守られ続けている

 山人とは山仕事に従事する男たちを指す。村の男たちは山に入って狩猟をしたり、建てた小屋でヘラや杓子(しゃくし)の木工品を作ったりしていた。彼らは山にソバ粉や味噌、塩を持って行き、山で取れる食材で料理を作った。それを再現したのが山人料理だ。

 雪降る2月上旬、村中心部にある「旅館ひのえまた」を訪ねた。厨房をのぞくと、会長で料理を担当する橘喜代一さん(73)がサンショウウオのからあげを作っていた。大型のオオサンショウウオではなく、体長10~20センチほどのハコネサンショウウオだ。

 「外見はグロテスクだが食べると血行が良くなり、子供のおねしょや疳(かん)虫にも効く」と喜代一さん。もともと漢方薬の原料として出荷されていたが、からあげや天ぷらの発案者は喜代一さんだ。かつては自身も山に入っていた。

一見地味だがバリエーション豊かな山人料理(福島県檜枝岐村の「旅館ひのえまた」)

 夕食に並んだ山人料理は素朴ながらバラエティーに富んでいた。この日の献立は11品。マイタケやキクラゲ、カモ肉、山菜のほかソバ粉を練った「つめっこ」を入れた味噌仕立ての「山人鍋」。ぜんまいとムキタケ、干しイモの煮付け、鹿の舌(かのした)と呼ばれる地キノコのいため物――など。鍋の肉はクマやウサギのこともあるという。

 サンショウウオのからあげは臭みはなく、歯応えのよい小魚のような食感。外見の抵抗感を和らげるため「最近は衣を少し厚めにしている」(喜代一さん)。塩焼きや天ぷらにもする。

 曲げ輪っぱの蓋を開けると「はっとう」が登場。ソバ粉ともち米粉を熱湯でこね合わせ、ひし形に切ってゆで、から煎りしてすったじゅうねん(エゴマ)と砂糖をまぶした代表的ソバ料理。もちもちした食感と甘いタレが後を引く。その昔上官に出したら「平民はこんなおいしいものを食べてはいかん」とご法度になったことが名前の由来だ。

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