峰不二子は「リケ女」… 劇中の数学解けるかな?関西学院千里国際中等部高等部数学科教諭、馬場博史

専門書を片手に、小説などに出てくる問題を解く
専門書を片手に、小説などに出てくる問題を解く

ひとつの栗まんじゅうが、5分ごとに倍になると1時間でいくつになるか?

人気漫画「ドラえもん」にこんな問題が出てくる。5分で倍だから5分後は1×2=2個、10分後はさらに2倍だから2の2乗で4個、15分後は2の3乗で8個……。と考えていくと、分かりやすいだろうか。1時間は5分×12だから答えは2の12乗、すなわち4096個ということになる。

映画やドラマ、小説など、私たちがふだん目にする作品には数学の問題があふれている。登場人物は難なく正解を口にすることも多いが、どれだけの人がその答えに納得しているのだろう。私は自分で解いてみなければ気が済まない。

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「数式」小説に衝撃

数学教師をしているので、授業で「この間、テレビにピタゴラスの定理が出てきたよ」などと話すと生徒が興味を持つと知っていた。最初はその話題集めのつもりで色々な作品を眺めていたが、小川洋子さんの小説「博士の愛した数式」がヒットしたときは驚いた。

作中で重要な役割を果たすのが、「数学における最も美しい定理」と言われる「オイラーの等式」だ。これを「予期せぬ宙からπがeの元に舞い下り、恥ずかしがり屋のiと握手をする」と表現しているのにも感じ入ったが、一般の人になじみが薄い数式が登場する小説が幅広く読まれたことが信じられなかった。

本を読んだりドラマを見たりするとき、分からない漢字や言葉が出てきても、いちいち調べず先に進んでしまうことは多い。多くの人は数式が分からなくても気にしていないかもしれない。

ただ、言葉の意味なら後で辞書を引けば大概のことは分かるが、数式を調べるのは大変だ。それなら解説があれば助かるだろうと思い、色々な物語に出てくる数学の問題の解法をブログにまとめていくことにした。

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峰不二子は「リケ女」

印象に残っているのはドラマ「水戸黄門」だ。2011年に放送された「難問ぞろいの算術対決」で登場した和算の問題の中の、大中小の円や楕円を組み合わせた図形から中央の楕円の短径を求める問題がどうしても解けなかった。

いや、正確にいうと解けたのだが、答えがドラマの中で示される「九寸余奇(9.0047……)」にならないのだ。

どこで間違えたのか?私は録画した番組を一時停止し、画面に写った図形を丁寧に書き取った。聞き落としたせりふがあるかもしれないと、出題シーンを何度も繰り返し見た。おかげでそれまで知らなかった「余奇(あまりわずか)」という漢字の読み方も覚えることができたくらいだ。

それでも答えが一致しない。年末だったのでもやもやした気持ちで年を越すことになった。

解決したのは放送から1カ月半後だ。職場で見つけた和算の本に全く同じ問題が載っていたのだ。ただ、設問の条件がドラマで出題されたものより多かった。「これが原因か」。独りごちて早速解いてみると、無事に「九寸余奇」になり、ようやくすっきりした。

見逃してしまうような短いシーンや小道具にも数学ネタはあふれている。14年公開の映画、実写版「ルパン三世」では、普通の6面立体パズルよりも複雑な正12面体パズルを峰不二子があっという間に仕上げていた。

正12面体パズルは難易度別に幾つかあるが、彼女が扱っていたのは最も難しいものだった。パターンの組み合わせは天文学的な数に及ぶ。一瞬で完成させるのは彼女の超人的な能力を改めて認識させる演出なのだろう。

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隠れた出題意図探る

馬場博史さん

これまでに解いた問題は80作品を超えた。最近は生徒たちから「こんな作品に数学が出ていた」と教えられたものもある。私が最も頼りにする高木貞治の名著「解析概論」がアニメ「デュラララ!!×2 承」に登場したことを知ったときは驚きを超えてうれしかった。アニメでは本の内容がよく分かるように描かれていたので、思わず本と照らし合わせたほどだ。

書きためてきたブログはこのほど「マスメディアの中の数学」(関西学院大学出版会)という本にまとめることができた。数学の知識がなくても物語は楽しめるかもしれない。だが、一瞬のシーンでも、作者の意図が隠されていたり、貴重な意味が込められていたりする場合もあると思う。それに気付くことが、多くの人にとって数学を楽しむきっかけになれば幸いである。

(ばば・ひろし=関西学院千里国際中等部高等部数学科教諭)

[日本経済新聞朝刊2017年2月27日付]

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