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作詩家・丘灯至夫 『高校三年生』に託した青春の夢

救心製薬取締役、西山謹司

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NIKKEI STYLE

「高校三年生」「高原列車は行く」「東京のバスガール」といった流行歌や「ハクション大魔王」「みなしごハッチ」「けろっこデメタン」などのアニメソングを手がけた作詩家、丘灯至夫(としお)。2000余りの作品を残して2009年に亡くなった。享年92。8日に生誕100年を迎える。

私は灯至夫が42歳のときに生まれた長男で、製薬会社に勤めている。作詩家の息子らしい仕事は「丘きんじ」のペンネームで自社のCMソングを書いたことぐらいだ。生誕100年を機に作詩家の素顔をご紹介したい。

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幼いころから虚弱な体

丘灯至夫こと西山安吉は1917年、現在の福島県小野町で生まれた。幼いころから極めて体が弱く、学校は休みがちで遠足や修学旅行にもほとんど行けなかった。

唯一の楽しみが詩作。文芸誌に投稿した詩が西條八十先生の目に留まり、プロの道が開けた。父の詩に「高校三年生」のような学園ソングが多いのは、自分の青春の夢を詩に託したからだ。

日本コロムビア専属作詩家と毎日新聞社「毎日グラフ」の記者。父は72年に毎日を定年退職するまで二足のわらじを履いた。「高校三年生」がヒットした63年から仕事は多忙を極めたが体調は最悪だった。食事はのどを通らず、食べても消化しない。身長150センチで体重は30キロ台。1年の3分の1は病院、3分の1は湯治という生活だった。幼い私は母と一緒に温泉宿までついていった。

父の生活態度は健康のためなら命も惜しまずといった調子だった。非常に几帳面(きちょうめん)な性格で、起きてからの行動はきっちり決まっている。顔を洗い、三面鏡のある部屋に30分こもって出てこない。わずかな毛髪を一本一本丁寧に整えるのである。

ゲタを履いて自転車で駅の売店に出かけ、新聞を何紙か買ってくる。さらに6~7紙が配達されていた。午前中は切り抜きに没頭するのである。膨大な量のスクラップブックを保管するため庭に別棟を建てたほどだ。

新聞を読むのは詩作のヒントを得るためだが、出先にいても、何か詩の糸口を見つけるたびに手近な紙切れに走り書きしていた。母は結婚当初、ゴミだと思って何度か捨ててしまったそうだ。

父は家に大勢の人を呼ぶのを生きがいにしていた。盛大だったのが毎年10月に開く「時期はずれ忘年会」。庭にテントを張り、縁日さながらヨーヨー釣りや綿あめ、焼き鳥の店まで出していた。

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400人が続々と家に

夕方5時から翌朝5時まで400人が次々と訪れる。「高校三年生」を歌った舟木一夫さんやエノケンさんをはじめ、大相撲やプロ野球の方もいた。母は1カ月前から買い出しに走り、てんてこ舞いだ。父は当日になると「たばこ屋」と称して隅っこでたばこを配っていた。集まってくれるだけで満足だったようだ。

父のイメージは好々爺(こうこうや)だったかもしれないが、実は突如として怒りだし、泣き叫び、誰も手がつけられなくなることがあった。ガラス窓や花瓶など、あらゆるものを破壊する。決まって年に2回爆発するから、半年ほどすると家族はそろそろかとびくびくしていた。

高原列車をはじめ父は乗り物の歌を多く作った。「まだ詩にしていない乗り物がある。霊柩車(れいきゅうしゃ)の歌を作らなくては死んでも死にきれない」。日本コロムビアの英断でわがままが受け入れられ、2008年に「霊柩車はゆくよ」と「あの世はパラダイス」が録音された。

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開口一番「本屋へ」

父は最晩年、入院先から一時帰宅したことがある。90歳を超え、重度の腎不全を抱えている。この時期を逃すと二度と帰れないだろうと考えた医師の計らいだ。帰宅の翌朝、父は開口一番言った。「本屋に連れていってくれ」。買ったのは最新版の「広辞苑」。創作への執念に圧倒された。

しばらくして再入院した父から「話がある」と呼ばれた。耳元でささやかれた言葉が忘れられない。「おれの葬式では『高校三年生』と『霊柩車はゆくよ』を繰り返し流してくれ」。09年11月、父は眠るように逝った。葬儀は遺言通りにした。

私は何の親孝行もできなかった。せめて父の記録を残そうと、思い出を記した「ニレの木蔭(こかげ)で」(百年書房)を自費出版することになった。「高校三年生」や「みなしごハッチ」の裏に、虚弱な体で懸命に生きた男の涙と笑いがあったことを知っていただければ望外の喜びだ。

(にしやま・きんじ=救心製薬取締役)

[日本経済新聞朝刊2017年2月6日付]

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