英国ドラマ、世界を魅了 演技力と綿密さで心つかむ
英国発のテレビドラマが人気だ。英女王の生涯を描く「ザ・クラウン」が今年の米ゴールデン・グローブ賞作品賞を獲得。重厚な雰囲気や確かな演技力で世界を魅了する作品が相次ぐ。
米ハリウッド外国人記者協会会員によって選ばれるゴールデン・グローブ賞。アカデミー賞の前哨戦とされる映画部門が有名だが、8日(現地時間)に催された第74回の授賞式では英米合作ドラマ「ザ・クラウン」がテレビドラマ部門の作品賞と女優賞の2冠に輝いた。女王エリザベス2世の人生を壮大なスケールで描く同作は、米動画配信大手ネットフリックスが昨年11月からシーズン1(全10話)を世界同時配信中だ。
「10時間の映画」
製作総指揮・監督は映画「リトル・ダンサー」などでメガホンをとった英国を代表する監督のスティーブン・ダルドリー。シーズン2(全10話)と合わせた製作費は130億円超。撮影期間は8カ月以上、スタッフ250人、キャストは324人に上り「(1シーズンで)10時間の映画」(ダルドリー)というのも誇張ではない。全体では6シーズン全60話の構想だとされる。
目を引くのは、徹底した細部へのこだわりだ。英国映画「クィーン」で米アカデミー賞脚本賞候補になったピーター・モーガンが脚本を担当。彼が数年にわたり交わした王室関係者らとの対話録やアーカイブ資料を検証チームが2年半かけて吟味し、脚本を練り上げた。衣装や宝石も、写真を基にデザイナーが手作りで復元したという。
女優賞を獲得したクレア・フォイの好演も光る。女王でありながら母、姉、妻と様々な顔を持ち、一人の女性として葛藤する姿を熱演。「視聴者は、ストーリーだけでなく、自分自身に投影するなど様々な理由で感動を覚えるはず」とモーガンは語る。政府や教会との駆け引きなど英国の政治・歴史物語としても女性の成長譚としても楽しめる。
近年の英国ドラマ人気の火付け役となったのは、2015年に第6シーズンで完結した「ダウントン・アビー」だ。実際の古城を使い、第1次世界大戦前後の英国貴族の華やかな生活や使用人たちを含めた人間ドラマを濃密に描いた。
テレビ界のアカデミー賞とも称される米エミー賞ではシーズン1がミニシリーズ・テレビ映画部門の作品賞を受賞。日本では11年にスターチャンネルなどで放送が始まり、現在、NHKでシーズン5(日曜、午後11時~)を放送中だ。
同作では、貴族と執事など階級によって異なる振る舞いや歩く速度まで綿密に作り込まれた。英国文化に詳しい新井潤美・上智大教授は「外国人に英国の文化への憧れを喚起する一方、日本人が時代劇を見るような感覚で、今の英国人にとっても発見がある」と人気の理由を分析する。
BBCが10年から放送する「SHERLOCK シャーロック」は斬新な設定で世界的に人気を博す。シャーロック・ホームズの舞台を現代に置き換え、スマートフォンやインターネットなどを駆使して難事件の謎を解く。今年1月、英国で最新のシーズン4が放送され、日本ではCSの「AXNミステリー」などがシーズン3までを放送した。
試写会に応募続々
主演のベネディクト・カンバーバッチは奇人ともいえる役柄を見事にこなし、一気にブレーク。ハリウッド映画への出演が相次ぎ、日本でも熱狂的なファンは多い。2月下旬にはシーズン4第1話の試写会が東京で開催予定で、AXNミステリーによると「予想を上回る応募がある」という。
英国ドラマの魅力の一つは俳優陣の確かな演技力だ。英国では演劇学校を中心に俳優の育成システムが確立されている。新井教授も「舞台を大事にするお国柄で、テレビや映画で活躍する俳優の多くが舞台経験を持ち、滑舌などの面でも鍛えられる部分は多い」と指摘する。複雑な心理描写や苦悩を演じ上げられる俳優が生まれる土壌も英国ドラマ人気を支えている。
(文化部 赤塚佳彦)
[日本経済新聞夕刊2017年1月31日付]
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