シェアリングエコノミー アルン・スンドララジャン著
新たなルール作りで成長進む
消費者は、市場で販売される商品やサービスを、生産者が作ったままの形で購入するのが一般的だ。しかし、高価な乗用車や家電製品では、性能の一部しか使わず、利用する時間が限られる場合が多い。その空き時間を他人とシェアすれば保有コストを大幅に節約でき、需要も増える。これが利用者同士のピア・ツー・ピア取引である。
貸し手と借り手の層が厚くなるほど、より効率的となり、需要面の規模の経済性が働き易い。これまで家族や知人などの間でしか成り立たなかった耐久消費財の貸し借りを、見知らぬ他人との間で円滑にできるようにしたのが、信用を媒介するデジタルネットワークである。
自家用車に他人を乗せるウーバーや自宅を旅行者に開放するエアビーアンドビーは、利用者には利便性の高いサービスを、所有者には副業の機会を提供する。さらに経済全体の資本や労働を、より効率的に活用する「所有から利用へ」の流れを加速させる。無駄な生産を減らし環境に負荷を与えない新たな経済成長の可能性をもたらす。「大量生産に支えられた資本主義の限界論」を打ち破る、新たなイノベーションの一つが、シェアリングエコノミーである。
発展への障害が既存の生産者やフルタイム労働者を前提とした法制度だ。利用者保護を名目にした旧来の事業者の既得権擁護論に対し、著者はシェアリングエコノミーに対応した新たなルール作りを提案する。これは多数の小規模な生産者を前提とし、その質を担保するためのものである。
例えば、デジタルプラットフォームに投稿される利用者のレビューである。これは第三者に公開するものと、ホストに対する非公開のコメントに分けられ、利用者の選択に大きく影響する。基準を満たさない運転手や顧客を容易に排除できる点で、公的規制より効率的である。
半面、人種差別意識に基づくものや厳しい評価者のレビューが続き、契約を打ち切られた労働者保護の問題もある。企業内の専業で働く従業員を前提とした従来の労働法は、空き時間を活用して副業で働く労働者には適さない面も多い。このため独立起業家でありながら従業員のような研修、保険、福利厚生を受ける「従属請負人」の分類を設けるという提案もある。
今後の日本にも共通した課題が多い。大都市で不足する宿泊施設を補う民泊や自動車のライドシェア(相乗り)の広がりが期待されている。この活用が働き方の改革とあいまって新たな成長戦略にも結び付くだろう。
(昭和女子大学特命教授 八代 尚宏)
[日本経済新聞朝刊2017年1月22日付]
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