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大人の発達障害、悩み共有 対人関係の解決策探る

2017/1/19付 日本経済新聞 夕刊

対人関係で臨機応変に対処するのが難しい「自閉スペクトラム症(ASD)」や「注意欠如・多動症(ADHD)」などの障害を抱えた成人向けのグループケアが広がり始めている。同じ障害の人同士が集まり、勤務先で直面する困りごとの解決策を考えたり、周囲と折り合うための方法を学んだりする。医療機関によるケア講座のほか、NPO法人が運営するものもある。

参加者の声を臨床心理士の内田さんが文字にし共有する(東京都世田谷区の昭和大学発達障害医療研究所)

「仕事や暮らしで困っていることを話してください」。進行役で臨床心理士の内田侑里香さん(28)が促すと、車座に座った30~50代の男性9人が順に発言し始めた。昨年12月半ば、昭和大学烏山病院(東京・世田谷)の発達障害医療研究所が開いたデイケア「土曜クラブ」でのことだ。

■「空気が読めない」

参加した9人は、普段は公務員やIT系企業の社員として働くなどしているが、対人関係でそれぞれに悩みを抱えている。この日のテーマは、障害を持つ当事者同士で問題の解決策を考える「ピアサポート」だ。

男性の一人は「何かと覚えるのが苦手で空気が読めない。同年代でも3人以上で話すと浮いてしまう。同時に複数の仕事をこなせない」とせきを切ったようにつらい経験を話し出した。内田さんはホワイトボードに発言を書き留めていくが、余白はすぐになくなった。思いを吐き出してもらうのが狙い。他の人は発言者の顔を見たり、うつむいたりしながら聴いている。

続いて暮らしで困らないための対策について話し合う。「予定をパソコンでリスト化し、携帯にアラームメールが届くようにすればスケジュール対策になる」「空気が読めないからと100%自己否定する必要はない。できる範囲の対応で十分」などの意見が出た。

同研究所は発達障害者を研究してきた加藤進昌所長(昭和大客員教授)を中心に2014年に設立。土曜クラブは、障害を抱えていると医学的に判定された成人向けのデイケア講座で、ASDやADHDといった障害の種類ごとに分かれ、社会とのかかわり方を20回に分けて伝えていく。

加藤所長は「ASDは特性であり、病気の『うつ』と違い治せるわけではない。言葉によらない情報を処理することが非常に苦手な点は、似た人同士が集まるなかで社会性を身につければ自立に結びつけられる」と話す。

ASDやADHDは、20年ほど前から主に学齢期の児童生徒の問題として、教育現場を中心に対策が取られてきた。発達障害者支援法が施行されてからは一般社会にもかなり知られるようになった。その一方で、成人向けの対策は見過ごされ、就職や昇進など社会人としてのライフステージが到来してから、本人や家族が悩むケースが出ている。

成人向けの対策が遅れてきた理由の一つには、診断が難しいことも挙げられる。「人の視線が気になるとか、名前が覚えられないなどで自分がASDではないかと疑っている大人の多くは発達障害ではなく、単に周囲に過敏に反応しているだけ」と加藤所長。ASDの人は他人に対し「逆に無関心で、他人の行動の意味がわからないことが多い」(同所長)。

医療機関以外でも、成人向け講座を開く動きが出てきた。ADHDを中心に、家族会の運営などで対策に取り組んできたNPO法人「えじそんくらぶ」(埼玉県入間市)は、4年前から年2回、ADHDの成人向けのグループ講座(全6回)を開いてきた。これまでの参加者は約170人。既に医療機関で診断を受けた人だけでなく、境界線上の人も受け入れるのが、医療機関のデイケアとは異なる。

1月24日から東京・池袋の東京芸術劇場で始める新年度講座のテーマは、感情を制御するのが難しいことのあるADHDの人向けの、アンガー(怒り)マネジメントだ。

■細かい仕事に適性

臨床心理士でえじそんくらぶ代表の高山恵子さんは「日本の企業では、一人に求められる仕事の範囲が広く、同僚などとの以心伝心が重視される。そういうなかでは成人の発達障害者は生きにくさを感じている」と指摘。ただ「発達障害があっても、細かい仕事を集中的に続ける能力が高い人は多い。企業がこの能力を生かせられれば活躍の場は広がる」と強調する。

グループケアを通じて、発達障害の人は自分の特性を知り、周囲の人との交わり方を学ぶ。同時に企業をはじめとする社会も障害への理解を深めることが必要。そうすれば発達障害を抱えながらも働きやすくなるのではないだろうか。

(礒哲司)

▼成人の発達障害 非言語コミュニケーションが特に苦手で特定の生活様式に執着する傾向が強い自閉スペクトラム症や、落ち着きがなく不注意な行動が目立つ注意欠如・多動症がある。昭和大学発達障害医療研究所によればASDは成人100人中1~2人が該当するとみられる。
2005年に発達障害者支援法が施行され、障害への理解促進や早期発見・支援について、国や地方自治体が取り組むよう規定している。

[日本経済新聞夕刊2017年1月19日付]

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