見せる『萌え断』サンドに挑戦 極厚切り口に具材集中
たっぷりと具をはさみ極厚で、しかも断面がカラフルな美しいサンドイッチがブームだ。専門店がにぎわい、写真共有サイト「インスタグラム」には自作のサンドを載せて、出来栄えを競う人が少なくない。腕がなる。さっそく挑戦してみた。
今や「萌(も)え断」なる言葉が誕生している。サンドイッチをスパッと切った断面に萌えるという意味らしく、ネット検索すると画像がたくさん出てくる。そんな萌え断サンドの画像を参考に定番具材をそろえ、まずは見よう見まねで作ってみた。
私自身はパンに具材をはさむだけで出来上がり、「食べるのも、作るのも簡単なのがサンドイッチ」という認識だった。だから最初の作は実に単純。10枚切りのサンドイッチ用食パンにレタス、チーズ、トマト、キュウリ、ハムを順番に置いた後、さらに逆の順でまた具材を積む。間にマヨネーズを適宜搾り、最後に上にパンを載せた。極厚を心がけ、約10センチの厚さに。
専門店では薄い紙でサンドを包み込み、きれいに切って売っている。ワックスペーパーと言うらしい。それらしく自作を包み、真ん中からパン切りナイフで切ってみた。でもどうもうまく切れない。ペーパーが重なった部分が問題で、左手で軽く押さえながら、右手で刃をギコギコ前後させたせいか、断面はマヨネーズにまみれ、およそ美しい出来栄えとはいえない。
赤・黄・緑で彩り 丸・斜め線を演出
美しくする基本作戦を聞きたいとマノ料理学園(東京都武蔵野市)の間野実花園長を訪ねた。「切り口を想像しながら、具材を置き、キッチンペーパーで野菜類を拭くなど具材の水分はできるだけ除去すること」。具材の載せ方にポイントがあった。2つに切る断面を見せるためには、具材は切り口の周辺付近を厚く、両サイドは薄く、ちょうどおわんを逆にしたように載せるのだという。
確かに自己流でつくったサンドを改めて眺めると、パンが水分を帯び、じっとりしている。洗った野菜の水切りが十分でなかったためなのだ。具を挟む時、パンにバターやマヨネーズを塗るが、おいしくするためだけでなく、具の水分がパンに染み込むのを防ぐ狙いがあったことを知った。チーズをはさめば、防水効果はさらに高まる。
間野さんの作った萌え断サンドを自分なりに研究すると、具材の載せ方にバリエーションがある。断面が丸いインゲンは丸太のようにきれいに並べる。肉は薄切りにして少しずつ重ねてずらすようにすると、斜めの線がきれいだ。緑、黄色、緑、赤と彩りを鮮やかに順番を変えて演出している。このワザは盗めそうだ。
それではハムサンドで工夫してみよう。具材のレタスを層状にしたり、千切りにしたり、断面の形が変わるようにする。ハムはトマトをはさんで巻き、立体でカラフルになるよう並べてみた。チーズとインゲンを少し重ねるようにして斜めの線が出るようにする。切って断面を見るとちょっとつぶれた部分があるけど合格点だろう。
おでんやひじき 和食材も好相性
間野さんのとっておきは、おでん種サンド。こんなものもサンドにできるのかとびっくりした。これに対抗して私が挑戦した具は、冷蔵庫に残っていたひじきの煮付けだ。インゲンを敷き、黒々したひじきを上に丁寧に重ねる。黒の上には白とかすかな赤がのぞくようにカニかまをやや斜めになるように載せた。和風変わり種サンドは彩りだけでなく味の相性がいい。
断面がカラフルな萌え断サンドだが、実際に食べる時にはあごが疲れる。解決策はないものかと専門店、サンドウィッチリージョアン銀座三越店(東京・中央)を訪ねると、いいヒントが見つかった。「スモークサーモンや生春巻きで具材をくるむようにすると、食べる時にばらけないですよ」。そう話すのは、同店を運営するドンク(神戸市)技術指導・商品管理本部の植松未来さんだ。
同店の「スモークサーモンとフロマージュ」はチーズをサーモンで巻いた3本をパンにはさむ。各ロールは一口サイズにし、食べやすいよう配慮している。厚さを4~6センチにとどめているのも同様で、「具だくさんだと、パンとの相性が悪くなる」から。
最後に今回のサンド作りで専門家からつかんだ最大のコツを紹介しよう。それは仕上げの包丁と切り方だ。先がとがってすっとパンや具に沈み込む包丁を使うこと。そして、切る前に刃を少し温めること。ホールケーキをカットする時のようだ。この一手間がインスタグラムにアップしたくなる萌え断に近づけるから、ぜひ取り入れてください。
芸術作品 仕上げる気分
子どものころ、弁当がサンドイッチだとちょっとうれしかった。野菜や果物、肉、魚など様々な具材をはさめ、栄養素も豊富だ。だが、極厚サンドは幼児にはさすがに食べにくいか。野菜類をぎっしり詰め込めば、ヘルシーサンドの出来上がりだが、「そこまでするなら、サラダにすれば」という声が聞こえてきそう。
断面を想像するのが大事と聞いたので、最終的には紙に断面図を手書きし、色づけしてみた。料理をつくるというより、芸術作品を仕上げる気分だった。おせち料理で連日、華やいだ食卓を今度は断面鮮やかな極厚サンドで、家族や友人を驚かせてみるのもおもしろい。
(堀威彦)
[NIKKEIプラス1 2017年1月7日付]
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