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血圧 高めで気になる人は… 家庭測定が役に立つ

2016/12/18付 日本経済新聞 朝刊

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 高血圧気味の人は、自分で血圧を測ると役に立つ。こんな認識が医学界で定着しつつあるのをご存じだろうか。医療機関でプロが測るより、本人が測る方が血圧値の信頼度が高いことが分かってきた。日本高血圧学会が定めた高血圧治療のガイドラインでも、自宅で定期的に測ることを推奨している。

 50歳代のAさんは20年前から高尿酸血症を患い、尿酸値を下げる薬を毎日服用している。2カ月に1度の診察日には、医師が昔からある水銀式の血圧計で血圧を測る。5年前から最高血圧が140ミリを上回るのが常となり、一番軽い降圧剤を併用することになった。

 デジタル血圧計を購入したAさんは、自宅でもたまに血圧を測るが、最高血圧はいつも160ミリを超える。何年たってもこのズレは縮まらない。Aさんは、デジタル血圧計は信用出来ないと思っていた。

 だが、あるとき医師にそれを伝えると、「強めの降圧剤に替えてみましょう」と言われた。実は、今や「ズレがあったら家庭血圧が優先」というのは、医師の共通認識なのである。

 医師や看護師が診察室で測る「診察室血圧」と、一般の人が自宅で測る「家庭血圧」に差があることは、以前から知られていた。診察室だと緊張して血圧が高くなる「白衣高血圧」は有名だ。その反対に、普段は血圧が高いのに診察室だと低くなる「仮面高血圧」の人も相当数いる。

 Aさんは仮面高血圧の典型だ。これを放置すると、脳卒中や心筋梗塞になるリスクが加療中の高血圧患者より3倍高くなるとされており、注意を要する。

 高血圧学会で血圧計の精度管理ワーキンググループ委員を務める帝京大学の大久保孝義教授は「家庭血圧を優先するほうがいいことを示す科学的な証拠はたくさんある」という。

 最も有名なものは、岩手県花巻市の大迫(おおはさま)町で、1986年から30年間も続いている家庭血圧の測定事業だ。延べ1万5000人以上の町民が参加して毎日自分の血圧を測定し、そのデータと、心臓病や脳卒中などの発症の履歴を記録している。

 調べたところ、家庭血圧と脳卒中の発症リスクの間には明確な関連があった。早朝に家庭で測った血圧が135ミリを超えた人は、明らかに脳梗塞のリスクが高くなる。一方、診察室血圧と脳梗塞などの関連は明確ではなかった。病気の予測という点では、家庭血圧が診察室血圧より明らかに勝るのだ。

 この結果は、世界の研究者が注目した。関係の英語論文は130本を超え、世界保健機関(WHO)や各国のガイドラインづくりにも反映された。プロジェクトの中心の一人、東北大学の今井潤教授は「高血圧の基準値である『最高135ミリ、最低85ミリ』は大迫から生まれた」と胸を張る。

 素人が測る家庭血圧が、なぜプロより信頼できるのか。第一に、同じ条件で測定しやすいからだ。血圧は運動や食事のほか、排便・排尿、会話などで数十ミリも変動する。早朝、朝食前に1~2分安静にして測るのが最も安定する。2、3度繰り返して測定することで再現性も高くなる。

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 ミスが少ない利点もある。医療機関で使われる水銀式血圧計は、上腕を圧迫して血流を止め、徐々に減圧して脈拍が再開する際の音を聴診器で聞き取る。この時の圧力が最高血圧。さらに減圧して音が聞こえなくなった圧力が最低血圧だ。減圧が速すぎたり脈拍を聞き逃したりすると、最高血圧が低めに出やすい。

 一方、家庭で使うデジタル血圧計は血圧を直接測ってはいない。脈拍の振動データを数式で処理し、最高・最低血圧をはじき出す。きちんと扱えば測定ミスはない。オムロンヘルスケア(東京・品川)の白崎修博士は「社によって数式は異なるが、精度の問題は解決している」と話す。

 水銀は有害なため、水銀式血圧計は2020年以降、製造・輸出・輸入が原則禁止された。医療現場でも順次デジタル血圧計に切り替わりつつある。

 国内の高血圧患者は約4300万人。デジタル血圧計は4000万台以上が発売されており、2軒に1台ぐらいの割で普及している。家庭血圧を定期的に測り、生活習慣を改善することで、脳や心臓の病気の予防に努めたい。

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■卓上式 腕帯はしっかりと 手首式 高齢者使いやすく

デジタル計にはさまざまなタイプがある(ヤマダ電機のコンセプトLABI東京店)

 市販されているデジタル血圧計は主に3種類ある。販売台数の約6割を占め、最も多いのが卓上式だ。腕帯を上腕部に巻いて加圧し、自動的に減圧しながら最高血圧、最低血圧、脈拍を測る。巻きが甘いと血圧値が高めに出るので、きちんと巻くようにしたい。

 早朝なら起床して1時間以内の朝食前、排尿をすませ1~2分落ち着いてから測るのがよいとされる。腕に巻いた腕帯が心臓の高さくらいになるよう、腕の角度を調節する。いつも同じ姿勢で測ることが重要だ。2回測り、差が5ミリ以内なら平均して記録する。

 次に多いのが手首式で、全体の約3割を占める。精度は上腕式に比べてやや劣るものの、測定時に服の袖を上腕までめくりあげる必要がなく、高齢者には使いやすい。残りは据え置き式の腕帯に腕を突っ込む全自動タイプ。手軽に測ることができ、スポーツジムなどでよく使われている。

(池辺豊)

[日本経済新聞朝刊2016年12月18日付]

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