カメラに向かって怪しげな視線を投げかけ、自信満々の表情で歌うパーカー姿の小太り男――。動画投稿サイト「ユーチューブ」上で今、こんな映像が話題だ。パフォーマンスの主はシンガー・ソングライターの岡崎体育。凝った映像とテクノポップ風楽曲が人気を集め、今年メジャーデビューして一躍人気者になった。
27歳。同志社大在学中に本格的に音楽活動を開始し、2012年からソロ活動を始めた。「体育」という芸名は、敬愛する電気グルーヴの石野卓球を参考にしたという。関西でライブを開き、ユーチューブに作品を投稿していたところ、14年にソニー系レーベル、SMEレコーズの目に留まった。SMEの井上泰斗氏は「ライブや映像を見て天才だと思った」と語る。
最初から映像パフォーマンスを企図した歌詞や曲作りはユニークだ。例えば、本人がペンギンの人形と腹話術のように会話しながら歌う「フレンズ」。はじめは人形との“友情”がテーマと見せかけて、次第に「4人組バンドの収入は4分割」「バンドざまぁみろ」などと、バンドの実態を面白おかしく皮肉っていく。
一見、お笑いタレント風のキャラクターでも、人気を支えているのは楽曲の質の高さだ。テクノ、ヒップホップ、ダンス音楽など多彩な要素を盛り込み、あくまで音楽家として評判を上げてきた。イベントでは、ライブ用の「ネタ曲」と直球勝負の楽曲を巧みに使い分ける。
ツイッターやフェイスブックなどのSNSを通じて名前を広めているのも特徴だ。SMEの方針でデビュー前から東京や大阪などの音楽イベントに参加する一方、ツイッターで情報発信してきた。今年4月、デビューに先駆けてユーチューブで公開された曲「ミュージック・ビデオ」はJ―POPにおけるプロモーションビデオの法則をパロディーにして評判となり、閲覧数は1300万回に達した。
5月に発表したDVD付きデビューアルバム「BASIN TECHNO」は、自宅がある京都・宇治の地形をイメージした「盆地テクノ」の意。2万2千枚を売り上げ、オリコンでは最高9位をつけた。動画サイトやSNSと連動し、話題をさらう。ネット時代の新しいアーティストだ。
(岩)
[日本経済新聞夕刊2016年11月16日付]