映画『イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優』
秘蔵資料が照らす素顔
映画の黄金期を知る70代以上のシニアが詰めかける映画がある。スウェーデンのドキュメンタリー「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」だ。「カサブランカ」などの作品で知られ、昨年生誕100年を迎えた大女優は生前、自らカメラを回してホームムービーを撮影し、幼いころの日記まで大切に保存していた。膨大な秘蔵資料をもとに構成した映画には、飾り気のない素顔が生き生きと映し出されており、長年のファンの心をつかんだ。
映画は偶然から生まれた。監督したスウェーデンのスティーグ・ビョークマンは2011年のベルリン国際映画祭に、母国の巨匠イングマール・ベルイマン監督を描いたドキュメンタリーを出品した。映画祭の審査員として参加していたのが女優でイングリッドの娘であるイザベラ・ロッセリーニ。彼女から、母親の映画を作らないか、と持ち掛けられたという。
イングリッドは思い出の品を何でも取っておく人物だったようだ。写真、ホームムービー、日記、手紙、子どものころに書いた作文まで大切に保存し、亡くなる前に三女のイザベラに託していた。今回の映画の制作途中には、長女の自宅地下室から大量のホームムービーも見つかった。ビョークマン監督は「素材はふんだんにあり、むしろ何を使わないか決める方が難しかった」という。
スウェーデンで女優として成功し、夫と娘を残して渡米。その後、戦争写真家のロバート・キャパと恋に落ち、イタリアの映画監督ロベルト・ロッセリーニの子を妊娠。大きなスキャンダルになった。映画は秘蔵資料とともに1男3女の実子たちが母を語る。化粧もせず、子どもたちとプールで戯れる姿など、仕事と恋、子どもたちへの愛に懸命だったイングリッドを浮かび上がらせた。
8月27日に東京・Bunkamuraル・シネマで公開されると、「彼女の映画をリアルタイムで見てきた70~80代の人たちで満席になる回が相次いだ」と配給した東北新社の寺田哲章氏。7対3の割合で女性の観客が多い。繰り返し見るリピーターも目立ち、「ほぼ毎日鑑賞するような人もいた」という。「1人の女性として、その生き方に共感しているようだ」と寺田氏はみている。
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[日本経済新聞夕刊2016年10月5日付]
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