油は三大栄養素の1つ、脂質の仲間。取りすぎはよくないが、必要量はしっかり取ろう。厚生労働省は2015年版「日本人の食事摂取基準」で、30歳以上が取るべき脂質の目標量上限を引き上げた。従来は総エネルギーに占める割合は25%だったが、30%になった。
脂質はエネルギー源になるだけではない。お茶の水女子大学ヒューマンライフイノベーション研究所所長の小林哲幸教授は「細胞の膜や体の様々な働きを調節するホルモンに似た物質などの材料になる」と話す。麻布大学生命・環境科学部の守口徹教授も「脳の約65%は脂質。神経の伝達機能をつかさどるのに脂質は欠かせない」という。
生活習慣病にも
こうした働きを高めるには様々なタイプの油の摂取バランスがとれているのが大前提。一口に油といっても、主成分である脂肪酸の種類でそれぞれ性質が異なるからだ。
まずは常温で固体か液体かで大きくわかれる。飽和脂肪酸は肉やバター、ラードなど魚以外の動物性脂肪に多い。常温で固まり、他の油に比べて体脂肪になりやすい。
さらに人間の体内でつくることができる一価不飽和脂肪酸と、つくることのできない多価不飽和脂肪酸に分類される。一価不飽和脂肪酸の代表はオリーブオイルに多いオレイン酸だ。酸化しにくく加熱調理に向く。
多価不飽和脂肪酸にはオメガ6系とオメガ3系がある。いずれも食事で取る必要のある必須脂肪酸だ。オメガ6系の代表は、大豆油やコーン油といった植物油に豊富なリノール酸。ちなみにサラダ油は、オメガ6系の植物油を精製したものだ。
一方、オメガ3系の代表例はイワシやサバ、サンマなど青魚の油に多いドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)。エゴマ油やアマニ油に豊富なα(アルファ)リノレン酸もある。エゴマ油はシソ科の一年草エゴマの種子、アマニ油は亜麻という植物の種子が原料。
「特に意識すべきは、オメガ6系とオメガ3系の摂取バランス」と小林教授。「両者は、体内で一方が増えると他方の作用が抑えられる関係にある」。どちらも必要だが、このバランスの乱れが生活習慣病のリスクにつながるという。厚生労働省の食事摂取基準ではオメガ6系を4~5に対しオメガ3系は1の割合が望ましいとされている。
原材料チェック
ところが「現代人の多くは食生活の欧米化でオメガ6系を過剰摂取している。できればオメガ6系を2に対し、3系は1の割合を勧めたい」と守口教授。オメガ6系のリノール酸は、菓子、パン、マヨネーズ、カップ麺、総菜など加工食品やファストフードに含まれる。こうした「見えない油」が、知らず知らずのうちに摂取過多を招く。
リノール酸は必須脂肪酸だが「取りすぎると免疫細胞が働きにくくなる。その結果、アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー性炎症疾患を引き起こす」(守口教授)。動脈硬化や心臓の病気などを誘発する可能性もあるという。
現代の食生活では「オメガ6系は最も減らすべき油。加熱調理にはサラダ油の代わりにオリーブオイルを。加工食品を選ぶ際は原材料表示を確認して」と守口教授。「植物性油脂」と書かれていれば、リノール酸が使われている可能性が高い。
反対に不足しているのはオメガ3系。昔ほど魚を食べなくなったためだ。「DHAとEPAは血液の流れをよくし、血管をしなやかにして動脈硬化を防ぐ」(小林教授)。心臓の病気や脳卒中リスク、中性脂肪値を下げたり、アレルギー症状を改善したり、脳の活性化も期待できるという。「週に3、4回の魚食が理想」(小林教授)
魚が食べられない日は、エゴマ油やアマニ油を小さじ1程度取ろう。αリノレン酸は体内でDHAやEPAに変換されるためだ。αリノレン酸は熱に弱く、加熱調理に向かない。エゴマ油やアマニ油は、調味料として料理の仕上げにかけるとよい。サラダや納豆、スープなどにかけるだけで、手軽にオメガ3系を取ることができる。酸化しやすいので密閉し冷蔵した方がいいという。
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マーガリン、トランス脂肪酸多く
かつて動物性のバターよりも低カロリーで健康的だとされていたマーガリン。摂取を控えた方がいい油「トランス脂肪酸」を多く含むことで、最近注目されている。
トランス脂肪酸とは、常温では液体のオメガ6系植物油を、化学処理で固体化する過程で発生する物質。「長く食べ続けると心臓の病気や糖尿病リスクが高まるとされる。取り過ぎは避けるべき油」(守口教授)
マーガリンから水分と添加物を除きクリーム状にしたショートニングも同じ。菓子類など身近な加工食品に使われている。原材料表示にマーガリン、ショートニング、食用精製加工油脂とあったら取りすぎに注意を。
(ライター 松田 亜希子)
[日経プラスワン2016年9月10日付]