ショートショート… 超短編小説、文学への入り口期待
魅力凝縮、瞬時に異世界へ
ショートショート、掌編小説といった超短編小説が再び注目されている。新たな書き手たちは短い中に物語の魅力を伝え、文学の入り口となることを期待している。
「普段あまり本は読まないけれど、星新一さんのショートショートだったら読む、という人が僕の周りには多かった。そのうちの何割かは別の作家の作品も読むようになった。小説や文学って面白いんじゃないかと感じるきっかけとなるショートショートというジャンルを復権させたい」
創作講座や大賞
「ショートショート作家」を名乗る田丸雅智はそう話す。「ゲームやスマートフォンなどと隙間時間の奪い合いが激しくなるなか、短時間で楽しめるショートショートは本に親しんでもらう有力な手段」とも。2011年、24歳のとき、作家の井上雅彦が監修するショートショート集「物語のルミナリエ」に作品が収録され、作家デビューした。
今年に入り、骨を取りだして休めるという不思議な治療をする診療所の物語など18話を収めた「ショートショート診療所」(キノブックス)、神社の祭りの夜に集まる奇妙な屋台や客を描いた20話で構成する「ショートショート千夜一夜」(小学館)、毎日奇妙な出来事が起こる高校が舞台の「E高生の奇妙な日常」(角川春樹事務所)など単行本の刊行が相次ぐ。
「ジャンルの裾野を広げたい」との思いからノウハウ本を出し、創作講座も開く。出版社のキノブックスに働きかけ、作家の発掘・育成を目的とした「ショートショート大賞」を15年創設。出身地の松山市が主催する「坊っちゃん文学賞」も現在募集中の第15回からショートショート部門を設け、俳人の神野紗希らとともに田丸も審査員を務める。
「瓶の博物館」で第1回ショートショート大賞を受賞したのが堀真潮だ。「仕事や家事の合間といったわずかな時間でも読めるのがショートショート。ケータイ小説は若者向けだが、ショートショートは上の世代にも読んでもらえる。それだけに短い時間でどれだけ違う世界に連れて行けるかが問われている」と話す。受賞作を含む初めてのショートショート集が11月をメドに出版される予定だ。
1行のみの作品も
川端康成の「掌の小説」など、純文学にも「掌編小説」と呼ばれるジャンルが存在する。「ショートショートはアイデア先行であるのに対して、そうではないのが掌編小説」と田丸。この掌編小説を手がける作家も目立っている。
2008年10月から15年9月まで新聞に掌編を掲載した芥川賞作家の田中慎弥もその一人。それらをまとめた単行本「田中慎弥の掌劇場」(毎日新聞社)が12年に刊行されたのに続き、今年5月には「炎と苗木」(毎日新聞出版)が出た。妻を殺したと主張する夫の独白や街が燃える中でかわされる母子の会話など合わせて81編を収める。
「川端の『掌の小説』には人間の怖い部分や生の状態が描かれている。私はこれまで家族などをベースに書くことが多かったが、今回の掌編では自分でもよく分からないものが出てきた」と田中は振り返る。
その田中に刺激を受け、瀬戸内寂聴は90代にして初めての掌編小説集「求愛」(集英社)を今年5月に刊行。13年、たくらみに満ちた小説集「スタッキング可能」でデビューした松田青子も掌編を含む50編を収めた「ワイルドフラワーの見えない一年」(河出書房新社)を8月下旬に出したばかりだ。たった1行、中には本文のない作品もある。
掌編小説について「これぐらいの分量だったら読んでもらいやすいはずなので、(読むことで)何かヘンなものにすれ違ったなと思ってもらえればいい」と田中は話す。超短編の魅力はその取っつきやすさにあるようだ。
(編集委員 中野稔)
[日本経済新聞夕刊2016年9月6日付]
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