サメ300匹ウヨウヨ 館山のダイビングスポット体験
人襲わぬ「ドチザメ」 定置網対策が観光資源に
房総半島の最南端にある千葉県館山市で、300匹以上のドチザメが乱舞するダイビングスポットが注目を集めている。もともとは定置網にかかった魚を食い荒らすサメを追い払う目的で設置したが、今では国内外から年間3000人ものダイバーが訪れる人気スポットになった。市や企業でも、おとなしく人は襲わないとされるドチザメを呼び水に、サメを観光資源に育てようと動き始めている。
8月中旬。大型の台風が関東地方に近づくなか、約20人のダイバーを乗せた1槽のボートが出航した。向かうのは館山市伊戸のポイント。通称「シャークスクランブル」だ。
シャークスクランブルでは水深20メートル付近にドチザメが好むエサを設置し「多い時は300匹以上のサメが泳いでいる」(伊戸ダイビングサービスBOMMIEの塩田寛店長)。年間を通じてエイ、クエなども集まってくる。
実際に潜ってみると、思った以上に魚との距離が近い。通常のダイビングではドチザメやエイは人間を警戒し、向こうから近づいてくることはまずない。ダイバー側もあくまで観賞を目的としており、魚などに触れることはマナー違反とされている。だがこのポイントでは、サメもエイも人に慣れているためか「食事の邪魔をするな」と言わんばかりにダイバー達の間に突っ込んでくる。
夏休みを利用して愛知県から訪れた会社員の近迫弦さん(30)は「ドチザメを目当てに来たが、想像以上に距離が近くて驚いた」という。一緒に来た同期の豊北幸弘さん(29)も「台風予報で心配したが、来て良かった」と満足した様子だった。
館山市伊戸ではもともと、定置網にかかった魚や周辺に捨てられた雑魚を狙うドチザメが数多く生息していた。そこで数年前、地元住民やダイビングショップが協力し、雑魚を定置網から離れた場所に集めてダイビングスポットにした。これが注目を集めるようになり、サメやエイによる定置網への被害軽減だけでなく、欧米など海外からもサメを見にダイバーが訪れる一大集客スポットになった。
こうした地元の動きに、自治体や企業も注目している。館山市は今年7月、ふるさと納税の返礼品を大幅に拡充。そのなかで1万円以上寄付した人への返礼品に、同市内で50年以上フカヒレを製造している信和キンシ工場のフカヒレ煮付けを加えた。「現在、一番人気の返礼品になっている」(市総合政策部)という。信和キンシの加藤公司社長も「人口約5万人しかいない館山市にとって、サメが市街地のにぎわい創出のきっかけになってほしい」と期待する。
「フカヒレそば、あんかけごはん」いかが
JR館山駅東口から徒歩10分の場所にある中華料理店「勘六」では、1杯2000円の「フカヒレそば」や「フカヒレあんかけごはん」を提供している。
漁港としても栄えていた館山市は昔から、サメとゆかりのある場所だったという説もある。明治時代に漁師が住み館山市の有形文化財に指定された「小谷家住宅」。洋画家・青木繁がここに滞在して仕上げた代表作「海の幸」では、仕留めた大きなサメを担いで歩く地元民の姿が描かれている。
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