ニュースの真相
スクープ、一転バッシング
「60ミニッツ」は1968年9月に放送が始まり、今なお続くアメリカCBSテレビの人気調査報道番組として知られている。
この番組にプロデューサーとして長年関わったメアリー・メイプスの自伝に基づく実話をジェームズ・ヴァンダービルトが脚本を書き、監督して映画化した。
20年のキャリアを持つメアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)はイラクの刑務所内での捕虜虐待を他局に先駆けて報じ、父のように慕うベテランのアンカーマンで番組の顔のダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)と祝杯を挙げた。
翌2004年。メイプスとダンは、熾烈(しれつ)な再選活動を展開中のブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑の大スクープを放った。だが共和党支持のブロガーがブッシュの兵役時代のタイプ文字と現在の文字の違いを根拠に文書偽造を指摘、その説はウェブ上で瞬く間に広がった。
番組制作者の「証拠文書偽造」疑惑が持ち上がり、報道は「誤報」になり、ダンは辞任、メイプスは初めから答えが出ているような不利な内部調査委員会での聴聞を受けるという敗北を喫した。
この大スクープから誤報とその後への過程を追うドラマは、途中に小さな不安を織り込んでいる。オンエア直前、証拠文書の正しさを確認できる相手がなかなかつかまらずに焦るメイプス。やっとつかまえた相手は文書の内容を否定しなかったが、メイプスは相手が「否定しない」ことで「認めた」と信じた。え、大丈夫なの!? と不安になる。
女性ジャーナリストとそのチームの努力で生まれた大スクープが一転してバッシングの嵐にさらされるまでの速さが怖い。孤立無援で真実の追求こそジャーナリストの命、と語るメイプスの聴聞会での毅然とした態度こそこの映画の最大の見どころ。女は度胸である。2時間5分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2016年8月12日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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