人工知能は敵か味方か ジョン・マルコフ著AIかIAか 研究の歴史紐解く

AIかIAか。人間の知能を実現する人工知能(Artificial Intelligence)を作るべきなのか、人間を助けその知性を拡張するもの(Intelligent Amplifier)を作るべきなのか。研究者のなかにはAI派もいれば、IA派もいる。人工知能の分野で長年続いてきたいわば宗教戦争である。

(瀧口範子訳、日経BP社・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

AIが目指すのは自動化である。人間の知的活動を自動化し、コンピュータやロボットにより次々と自動化していく。目指すところは、運転から災害救助や介護まで多岐にわたる。一方で、IAが目指すのは人間の補助だ。人間がシステムを動かす「ループ」に入り、コンピュータは人間の判断を助け、人間の指示で動く。

AIは、人間の能力を置き換え、職業を奪う。いつしか、コントロールが利かなくなるかもしれない。では、IAのほうがいいではないか? ところが、そんな単純な話ではない。本書では、この宗教戦争が、ときには両者近づき、ときには離れて進んできた歴史を紐解(ひもと)く。

本書の読みどころは2つある。ひとつは、人工知能の「神話の時代」から、現代にいたるまでの超有名人がつぎつぎと登場することだ。現在のコンピュータの基礎を作ったフォン・ノイマンから始まって、ノイマンの指導を受けたAI派の代表ミンスキー、IA派の代表エンゲルバート。さらにはAI派からIA派へ転身したウィノグラード、その教え子でGoogleを創業したペイジ。ディープラーニングの「教祖」であるヒントン。過去から現在へ続く脈々とした人間関係の連なりが、ベテランの科学記者の目を通じて浮かび上がる。

もうひとつの読みどころは、人工知能における世界の大きな流れだ。スタンフォードにいたセバスチャン・サランが何を考え、自動運転車を作ったのか。Googleのロボット戦略の鍵をにぎるアンディ・ルービンはどんな人物で、何を志向しているのか。トヨタの研究所を率いるギル・プラットはどういうルーツがあるのか。翻って、今回の人工知能の第3次ブームの進展を占うことができる。

さて、AIか、IAか。私自身はAIの立場だ。いつの時代も、自動化技術が、文明を前に進めるという点で勝者になる。ただ、本書で書かれているように、AI派が人間や社会のことを気にしていないかというと全くそんなことはない。人間が知りたいから、自動化をしたいのだ。いずれにしても、社会をどう作るか、その答えを出すのは我々自身だ。

(東京大学特任准教授 松尾 豊)

[日本経済新聞朝刊2016年7月31日付]

人工知能は敵か味方か

著者 : ジョン・マルコフ
出版 : 日経BP社
価格 : 2,376円 (税込み)

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