シン・ゴジラ
震災後の日本を映す
正体不明の巨大生物が海から現れ、東京に上陸する。人々は逃げ惑い、政治家は浮足立つ。放射能を帯びた巨大生物は迎撃を退け、街を焼き払う……。筋書きはシリーズ第1作「ゴジラ」(1954年)と同じだ。
水爆実験、第五福竜丸事件、自衛隊発足。「ゴジラ」は怪獣映画でありながら、怪獣に翻弄される人間のドラマを中心に据え、その年の社会の空気と、まだ生々しかった戦災の記憶を色濃く反映した。「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明が脚本・総監督を務めた新作も現代日本を映し出す。
東京湾のトンネルが突如崩壊する。官房副長官の矢口(長谷川博己)はすぐに動き、閣僚が集められる。しかし巨大生物の出現という未曽有の事態に官僚機構は即応できず、有効な対策が打てない。その間に巨大生物は市街地に上陸。首相は自衛隊に攻撃を命じる。
首相補佐官・赤坂(竹野内豊)の計らいで、矢口の元に各省庁の異端児を集め、対策チームが作られる。事態を重く見た米国は大統領特使カヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)を送り込み、日米共同作戦を準備する。一方、再上陸した巨大生物「ゴジラ」は自衛隊のミサイル攻撃をものともせず、都心へ向かう。
刻々と状況が変わり、政治家や官僚が次々と画面に現れ、感情を交えず早口でしゃべる。セリフの情報量は膨大だが、そこに緊迫したリアリティーがあるところが庵野作品らしい。若い矢口が率いる個性派集団が使命感をもち、難題を克服していくさまも同様だ。
米国の要求、国際社会の圧力、それに対応する日本の苦境が生々しい。避難や疎開の光景は東日本大震災を思い起こさせる。われわれの平穏な日常がいかに脆弱な基盤の上に立つか。そこに震災後の日本が映る。
処方箋はない。ただ希望は示す。破壊後の世界を描いてきた庵野の祈りだろうか。2時間。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2016年7月29日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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