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消費増税の延期が決まったわね。安倍首相は「新しい判断」と言ったらしいけど、どういうこと? なぜ延期する必要があったのかな。

2017年4月に予定されていた消費増税が19年10月へ2年半延期されたことについて、岡紗恵子さん(30)と高橋映里子さん(45)が瀬能繁編集委員の話を聞いた。

なぜ延期が決まったのですか。

「国内の個人消費の低迷が続いているため、増税すればさらに消費が冷え込み、日本経済が再びデフレに逆戻りするかもしれない、と安倍晋三首相が判断したのが理由です。14年4月に消費税率を5%から8%へ引き上げたときは、直前に大きな駆け込み需要が発生し、その反動で増税後の消費が落ち込みました。その後、次第に消費は回復すると多くの人が考えていましたが、2年以上たっても思うように回復していないのです」

「安倍首相は従来、08年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災のような事態が起きない限り、予定通り増税する考えを示していました。6月1日の記者会見では、現状についてリーマン・ショックのような金融危機とはいえず、熊本地震も東日本大震災ほどの被害ではないことを認めたうえで、増税延期を『新しい判断』と説明しています。原油価格など世界の商品市場の相場低迷が『リーマン・ショック前』の状況に似ている、とも述べたとされます」

「安倍首相が議長を務めた5月の主要国首脳会議、伊勢志摩サミットで『経済成長のためにあらゆる政策を総動員する』と合意したことも理由です。しかしこれも、主要7カ国(G7)首脳の中で『政策総動員』の必要性について温度差があります。安倍首相がサミットを増税延期の口実にしている印象は否めません」

前回、増税の延期を決めたときに「再延期はしない」という話がありましたよね。

「12年に当時与党だった民主党と、自民党、公明党の3党の間で、社会保障と税の一体改革に関する『3党合意』が成立しました。この中で、消費税率を14年4月に8%、15年10月に10%へ引き上げることが決まりました。ただし、3党合意に基づいて成立した法律には『景気弾力条項』という規定があり、景気が悪化しているときは政府の判断で増税を延期できる仕組みでした」

「安倍政権は14年4月に予定通り増税しましたが、その後の消費低迷を受けて、同年11月、10%への引き上げは17年4月へ1年半延期すると決めました。そして『国民の信を問う』ため衆院解散に踏み切りました。その際、安倍首相は『再延期はしない』と公約して、法律から景気弾力条項を削除し、再延期には法改正が必要なかたちにしたのです。そのため『公約違反だ』という批判もあります。安倍首相は『批判は真摯に受け止める』と述べ、7月10日投票の参院選で国民の信を問う考えです」

増税しないのは助かりますが、日本の財政は大丈夫でしょうか。

「国と地方をあわせた借金の大きさが先進国で最も悪化しているなかで、政府は基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を20年度に黒字にするという目標をずっと掲げています。これは社会保障費や公共事業費など政策的経費を新たな借金に頼らず税収で賄うということです。しかし内閣府の最新の試算では、17年4月に予定通り増税し、名目経済成長率が年3%程度という高水準を達成したとしても、20年度に依然としてPBが赤字です。PB黒字化という目標の旗はまだ降ろしていませんが、どうすれば実現可能なのかはわかりません」

今後の経済政策には何が必要ですか。

「消費の現状を年齢別にみると、高齢者の消費は落ち込んでいないのに、若い世代ほど消費が落ち込んでいる、との分析があります。背景には若年層の将来不安があると考えられます。自分が年をとったときに年金がもらえるかどうか不安だから、消費を減らして貯蓄に励んでいるということです」

「消費回復のためには、社会保障の抜本改革に踏み切り、若年層の将来不安を解消する必要があるでしょう。これは財政再建のためでもあります。経済的に余裕のある高齢者への給付は減らすなど、痛みを伴う改革によって社会保障の持続性を高めることが最大の政策課題といえそうです」

ちょっとウンチク


増える社会保険料にも注目
 消費増税を延期すれば、目先の景気が下振れするリスクは小さくなる。半面、財政の健全化は遠のく。高齢化のペースが止まるわけではなく、医療や介護などの社会保障費の膨張圧力は続く。
 雇用情勢は改善し、緩やかではあるが賃金は上がっている。にもかかわらず、消費が低迷している一因が、若年層を中心とする将来不安とされる。今年3月の経済財政諮問会議に内閣府が示した資料をみると、39歳以下の世帯の消費性向(可処分所得のうち消費に回した割合)が下がっている様子がはっきりと見て取れる。単なる増税延期でかえって若年世帯が将来不安を強めては元も子もない面がある。
 もう一つ注目すべきなのは、医療や年金などの社会保険料の負担増だ。経団連によれば、2012年度から14年度にかけて現金給与総額は約11万円増えたものの、その半分近くが社会保険料の負担増で相殺され、手取り賃金が伸び悩んでいる。やはり社会保障と税を一体で改革する視点が必要になる。
(編集委員 瀬能繁)

今回のニッキィ


岡 紗恵子さん 金融機関勤務。2年ほど前からキャンドル作りにはまっている。「自分の好きな色でバラやランタンなど様々な形を作り楽しんでいます」
高橋 映里子さん メーカー勤務。最近、テレビ通販で電気圧力鍋を購入した。「画面表示されるレシピ通りに材料を入れるだけですぐ料理でき、気に入っています」
[日本経済新聞夕刊2016年6月27日付]

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