「好物」の皮脂、湯で一掃 くん煙除菌、2カ月ごとに
「好物」の皮脂、湯で一掃
カビの胞子は、空気中の至る所で舞っている。条件がそろうと発芽して、菌糸を伸ばして増えていく。カビが増える3条件は温度と湿度と栄養源だ。セ氏20~30度、湿度60~80%でよく増殖し、皮脂やあかなどを大好物とするから、浴室はまさにカビの楽園。ちなみに温度的には春や秋でもカビが増殖する。対策は梅雨時に限らない。
入浴のたびに隅々までブラシ掛けをして、念入りに水分を拭き取ればベストだろう。ただ、住まい方アドバイザーの近藤典子さんは「そこまでしなくても防げる」と助言する。使うのはシャワーとT字型水切りのスクイジーと換気扇だけでいい。
浴室に入ったらシャワーで壁や床をぬらし、カビの栄養源を付きにくくする。あとは出る前に大流量のシャワーで壁や床に湯をかけ、スクイジーで手の届く範囲をササッと水切りした後、換気扇を3~4時間回すだけ。
「洗い流すのは油分が溶けやすいようお湯で。スクイジーはゴム部分がしっかりした大きめサイズを選ぶといい」。換気中は浴室のドアを少し開け、居室に通じる洗面室のドアは広く開けておくと「空気の流れが速くなり乾きが早い」。これまで浴室にカビを生やしたことがないという近藤さんの徹底手抜き術だ。
シャワーをかけるのはせっけんカスが飛び散る範囲まででいい。ライオンの研究によれば「せっけんやシャンプー成分だけではカビは発芽しないが、そこにあかや皮脂などが含まれると栄養源となって増殖する」(研究開発本部リビングケア研究所の内藤厚志主任研究員)。立って洗い流すと範囲が広がるので、手抜きをするなら座るが勝ちだ。
くん煙除菌、2カ月ごとに
カビ対策には最新の設備や商品も役に立つ。
最近の新築マンションの大半は浴室に暖房乾燥機を備える。換気扇の代わりに使うとより効果的だ。東京ガスによると、ガス式の場合、吸い込み口付近の温度は46~48度。「一般的なカビの死滅温度は60度」(千葉大学真菌医学研究センターの矢口貴志准教授)というからこれだけでカビ退治にはならないが、生育しにくい環境にはなる。
さらにパナソニックからは温度や湿度を調整してカビの発生・増殖を抑えるタイプも出ている。ただし暖房乾燥機も定期的にフィルター掃除をしないと逆効果になるので、手入れには十分注意したい。
家事・住宅アドバイザーの藤原千秋さんのお薦めはくん煙剤。ライオンの「おふろの防カビくん煙剤」は水と反応して煙となった銀イオンが、天井から床まで浴室全体を抗菌コーティングする。閉め切った浴室に90分以上放置するだけでいい。換気扇を回す以外は毎日の手入れをしない藤原さんの家でも、1カ月半はカビが生えてこないという。
ライオン快適生活研究所の杉本美穂リビングケアマイスターによると「1~2カ月に1度の使用で、天井に潜んで胞子をまき散らす見えないカビも除菌できる」。カビは黒く根付いてしまったら手遅れ。目につく前に除菌するのが早道だ。「イスや備品なども積極的に煙に当てるようにすると効果的」という。
目につかないという点ではユニットバスのエプロン(取り外し可能な前面パネル)内部にもカビは生え、胞子をまき散らす。藤原さんは、業者がエプロン内部を清掃してからくん煙剤を使ったところ、いつもは1カ月半で生えてくるカビが半年以上、顔を出さなかったという。いっそプロに任せるのも手抜きの極意だ。
最近の浴室は手入れ面での進化がめざましい。LIXIL浴室商品部の寺内宏樹グループリーダーによると、汚れを落としやすい排水口、油分をはじき水になじむ床、防汚コーティングをした浴槽、ドア下の換気口をなくして浴室側にゴムパッキンを使わないなど、新機能が目白押しだ。洗車システムのように、ボタン一つで浴室全体を「洗室」する日が来るのだろうか。
(福沢淳子)
[日経プラスワン2016年5月28日付]
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