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車椅子の人も踊り… デジタルアートを医療に

2016/5/17 日本経済新聞 夕刊

デジタル技術を使ってダンサーとダンスを楽しむ脳性まひの中学生(左)(東京都渋谷区)

デジタル技術を使うアートを、医療や福祉の現場で生かす動きが広がり始めた。車椅子の人も踊りを楽しめるプログラムを考案するなど、若い世代が新たな発想で挑んでいる。

東京都の中学3年生、山下時生さん(14)はダンスが大好きだ。人気グループ「EXILE(エグザイル)」に憧れる。だが生来の脳性まひを患い、手足は自由に動かない。身体にハンディがあっても踊りたい――。そんな願いをかなえたのが、デジタル技術を駆使したアートだった。

8日、東京・原宿で開かれたワークショップ。スクリーンに山下さんの分身のような全身の影が映し出された。影と、傾斜に応じて発信信号が切り替わるゲーム機のコントローラーは、コンピューターのプログラムを通じてつながる。山下さんがコントローラーを振り下ろすたび、影は上下左右に躍動する。そばで全身を使って踊るダンサー、桑原一郎さん(33)とのダンスバトルを、山下さんは影を動かして楽しんだ。

このプログラムを開発したのは、都内の看護師の吉岡純希さん(26)。「身体の動きに制限があっても自由な表現を諦めない。それは今あるデジタルの技術や機器を活用すれば可能で、自身の病気を前向きに捉えることにつながればと考えた」と狙いを語る。

■季節体感手助け

吉岡さんは2014年春からデジタルアートを独学。医療や福祉の現場に持ち込む活動を「デジタルホスピタルアート」と名付け、これまでに首都圏や大阪、四国の病院と福祉施設の計7カ所で実践。患者らが前向きに生きる一助になればと、独自に作成したプログラムを提供する。

外出できない長期の入院患者には、季節を体感してもらうため、病院の白い壁に満開の桜の木のアニメ映像を映す。患者が映像に向けて手を動かすと、特殊なセンサーが動きを感じ取り、花びらが散る仕掛けだ。末期がんで病床から起き上がれない60代女性には、寝たままでも家族の思い出が詰まった写真が見られる仕組みを考案。プロジェクターを上に向け、天井でスライドショーを見られるようにした。

ホスピタルアートというと医療機関の無機質な空間に絵画などの美術作品を置いて患者の心を和ませるものが多い。その意義は広く認められているものの、普及には費用や手間がかかる点が課題として挙げられる。吉岡さんは「デジタルであればプログラムを搭載した機器を持ち込むだけでよい。さらに患者の症状や求めに応じたものをつくれる」と期待をかける。

九州大医学部3年生の奥田一貴さん(21)も、デジタルホスピタルアートを推進する一人だ。医療機関でプラネタリウムを上映する「MOIRA(ミラ)プロジェクト」を発案し、3月に茨城県の病院で第1回を実施。プラネタリウムの設計・製作を手掛ける大平技研(横浜市)から借りた機材で、壁と天井の一面に約100万個の星を映すと、患者とその家族ら約60人が瞳を輝かせて見入った。

「入院生活が続くなかで、自分を見つめ直す機会になった」。約30分の番組を終えた後、そんな思いを漏らす人が多かったという。

■若い世代が新風

都内の管理栄養士、村田裕介さん(24)はデジタルアートを食育に役立てようと模索する。吉岡さんと同じようにプログラミングを独学し、独自の食育ツール「みるごはん」を昨年完成させた。一画面にチョコレートや空揚げなど20品目を分割して表示。利用者に20秒ほど見てもらい、視線を追跡する測定機器で「長く見ていたものTop3」を割り出す。上位3品目を最後に示し、各品目にはカロリー数を付け加えた。

村田さんは「国を挙げて食育に取り組むが、生活習慣病の抜本的な改善にはつながっていない。冊子とポスターの『紙とペン』の食育では届かない層にも、これなら面白いと関心を持ってもらえる」と意気込む。

吉岡さんと奥田さん、村田さんは個別に活動していたが、交流サイト(SNS)などで知り合い、団結した。他の医療関係者と共に年内にもNPO法人を設立する予定だ。法人化で社会的な信用を高め、デジタルアートの医療現場などでの利用拡大を目指す。彼らは問題の解決にあたってデジタル技術を自然と使い、即座に実践してきた。そうした若い世代が医療や福祉の場に新風を吹き込もうとしている。

(文化部 諸岡良宣)

[日本経済新聞夕刊2016年5月16日付]

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