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水ぼうそうウイルスで発症 帯状疱疹、ワクチンで予防

2016/5/10 日本経済新聞 朝刊

 激しい痛みを伴う帯状疱疹(ほうしん)は、体の奥に潜んでいた水ぼうそうウイルスが再活性化して発症する。厚生労働省は、水痘ワクチンの効果・効能に「50歳以上の帯状疱疹の予防」の追加を承認した。ワクチン接種により健康被害が生じた場合、公的な救済措置の対象となる。帯状疱疹は痛みが長引く場合もあり、高齢者では発症をきっかけに寝たきりになる人もいる。専門家はワクチンでの予防を推奨している。
帯状疱疹は帯状の発疹ができる(馬渕智生・東海大学准教授提供)

 横浜市に住む90代の女性はある日、腰のあたりにピリピリとした痛みを感じた。痛みはだんだんひどくなり、数日後、左側だけに赤い発疹が生じた。衣服を着るだけで痛く、日常生活に支障をきたすほどになった。家族に連れられて病院を受診、帯状疱疹と診断された。抗ウイルス薬などを飲んで症状は改善したが、完治するまで1カ月以上かかった。

◇     ◇

 帯状疱疹は、加齢や過労、ストレスなどで免疫の働きが低下して発症すると考えられている。がんや糖尿病、アトピー、膠原(こうげん)病や妊娠がきっかけになる場合もある。チクチク、ピリピリする痛みが起こった後、数日で体の左右どちらか片側に赤い発疹ができて帯状に広がり、水ぶくれになる。

 発疹ができやすいのは胸、腹部、背中、顔、頭部など幅広い。重症化すると、顔や頭部では視力障害が起こったり、顔面神経マヒを起こして口が閉じられなくなったりする。

 帯状疱疹の原因は子どもの頃に感染しやすい水痘・帯状疱疹ウイルスだ。水ぼうそうが治った後もウイルスが体内の神経節に潜伏する。

 病原体を攻撃するリンパ球は、一度ウイルスに出合うと形を記憶し、ウイルスが神経節から出ないようパトロールしている。過労や加齢でリンパ球の数が減ると、ウイルスが活性化して神経節から飛び出し、神経に沿って表面に現れる。

 5~7人に1人が一生のうち一度は帯状疱疹を発症するといわれる。ほとんどの人が原因ウイルスに感染しており、誰にでも発症する可能性がある。

 年齢別にみると、50歳以上の発症が多い。20代でかかる人もいるが、30代で家族を持つと子どもが水ぼうそうにかかった際に、新たにリンパ球がウイルスと出合い免疫力が高まる。それが50代で「子どもの頃にウイルスを記憶したリンパ球が減る」(まりこの皮フ科の本田まりこ医師)。

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 乳幼児では水ぼうそうを防ぐため、2014年10月から水痘ワクチンの定期接種が始まった。中身はあらかじめ毒性を弱めたウイルスだ。

 大人のワクチン接種では全額自費で、費用の目安は1万円前後。効果は10年程度とされる。

 これまではワクチンで重大な副作用が起こっても救済措置がなかったが、今回、水痘ワクチンの効果・効能に50歳以上の予防が追加承認され「国のお墨付きがもらえた」(本田医師)。

 ワクチンで帯状疱疹も防げると疫学調査で分かり、欧米では定期接種が進んでいる。ワクチンでウイルスを体内に入れると、リンパ球がウイルスを記憶し、体内に潜むウイルスが活性化することを防ぐ。

 乳幼児で水ぼうそうの定期接種が始まり、水痘患者の減少が期待できるが、逆に帯状疱疹の患者は増える可能性があるという。

 原因ウイルスに出合う機会が減り、免疫力が活性化せず、リンパ球が減り続けてしまうからだ。特に独り暮らしの高齢者や、若い人でも忙しい毎日を送る人などは「接種を推奨する」(本田医師)。

 治療には抗ウイルス薬や鎮痛剤を使う。「なるべく早く治療を始めるのが重要だ」(東海大学の馬渕智生准教授)だ。早めに対処すれば、早く治る可能性が高い。

 まれに完治した後も痛みが続く場合がある。帯状疱疹後神経痛と呼ぶ後遺症だ。高齢者や体力が落ちている時や、皮膚の症状が激しいと起こりやすいという。

 帯状疱疹にかかったら、まずは体を休める。水ぶくれが乾いてかさぶたになったら、「日常生活にできるだけ早く戻す」(馬渕准教授)。

 高齢者の場合、1週間寝込むと筋肉の量が落ちる。筋肉が落ちると、少し動いただけで痛かったり、思うように動けなくなったりする。そのまま動かないとさらに筋肉が減る。痛いからといっていつまでも寝込むと、神経痛か筋肉痛かわからなくなる。少しずつ元のペースに戻すよう努めよう。

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■インフル・肺炎球菌ワクチン 高齢者向け定期接種 国、原因菌を継続調査

 水痘ワクチンに50歳以上の帯状疱疹の予防効果が認められて、高齢者が接種できるワクチンの選択肢が広がってきた。高齢者には、水痘ワクチン以外にも、インフルエンザウイルスと肺炎球菌向けの定期接種がある。

 肺炎球菌は高齢者が感染すると、菌血症を伴う肺炎や、敗血症、髄膜炎などの侵襲性肺炎球菌感染症を起こす。特に80歳以上で発症しやすい。2006年から3年間、施設に入所している高齢者1006人を対象にワクチンの効果を調査したところ、肺炎球菌による肺炎が約6割減少した。

 肺炎医療費の削減効果が示されたことなどから、14年から65歳以上を対象に定期接種が始まった。5歳刻みの年齢で接種し、5年間かけて全ての高齢者に接種する方針だ。自治体によっては通知を出さず、接種する機会は1年間のみなので注意が必要だ。

 最近、問題になっているのが、ワクチンで予防できない種類の菌が大人の患者から見つかっている点だ。肺炎球菌の種類は90種類以上と多く、国立感染症研究所の大石和徳・感染症疫学センター長は「子供から大人に菌が伝わっている」と推測する。成人の侵襲性肺炎球菌感染症の原因菌でワクチンが効く割合が導入前の14年は8割以上だったが、66%まで下がった。感染研は原因菌の種類を継続して調査する方針だ。

(藤井寛子)

[日本経済新聞朝刊2016年5月8日付]

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