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イランについてのニュースが増えているみたいね。中東にあるということはなんとなく知っているけれど、どんな国で、なぜ注目されているのかな。

イランについて、山浦香織さん(37)と坂本友実さん(29)が松尾博文編集委員の話を聞いた。

イランってどういう国ですか。

「中東で長い歴史を持つ大国の一つです。国土の大きさは日本の約4.4倍もあり、人口は7800万人います。これはトルコとほぼ肩を並べ、エジプトの9000万人に次ぐ規模です。原油の埋蔵量は世界で4番目、天然ガスは世界一の埋蔵量を誇ります。エジプトやサウジアラビア、シリアなどはアラブ人が人口の大半を占め、トルコはトルコ人が多い国ですが、イランはペルシャ人が最も多くなっています」

「イランは1970年代後半まで国王が最高権力を持ち、米国と友好関係にありました。ところが79年、王制に批判的だったイスラム教の聖職者たちが王制を倒して、イスラム教の教義に基づいて聖職者が国を治める体制をつくりました。これが『イラン革命』です。さらに同じ年、首都テヘランの米国大使館に急進的な学生たちが侵入し、大使館員やその家族らを人質に取り、米国に入国していた国王の身柄引き渡しを要求するという事件が起きました。そのため米国はイランとの国交を断絶し、現在も国交を回復していません」

なぜいま、イランに注目が集まっているのですか。

「イランは周辺のアラブ諸国と民族が異なるうえ、同じイスラム教でもイランはシーア派、エジプトやサウジアラビア、トルコはスンニ派が主流で、周辺諸国とあつれきが多い国です。80~88年には隣国イラクと戦争もしました。ユダヤ人が中心のイスラエルとも激しく対立し、米国とも緊張関係が続いています。こうした事情からイランはひそかに『核開発』に乗り出していたのです。イランは『原子力エネルギーの平和利用が目的だ』と主張しましたが、米欧は放置すればイランが核兵器を持つ可能性が極めて高いと警戒しました。万が一そうなれば、周辺諸国も対抗して核兵器を持ち、中東全域に核が拡散しかねません」

「そこで欧米諸国は核開発を諦めさせようと強力な『経済制裁』をイランに科しました。欧米や日本の企業はイランでのビジネスが制限され、イランの原油輸出も大幅に減りました。ところが昨年7月、米欧やロシア、中国など6カ国とイランの間で、イランの核開発を制限する代わりに経済制裁を解除することで合意したのです」

「制裁が解除されれば、欧米や日本の企業はイランで新たなビジネスができます。人口7800万人の市場が新しく生まれたのと同じことです。豊富な石油や天然ガス資源の開発も進むでしょう」

なぜこの時期に経済制裁解除が実現したのですか。

「これまでイランで実権を握っていたイスラム教の聖職者たちは『保守強硬派』が多く、2013年まで大統領を務めていたアハマディネジャド氏も欧米諸国に対して強硬路線を取っていました。しかし、長く続いた制裁でイラン経済が疲弊し、国民の間には不満もありました。13年の大統領選で当選したロウハニ師は穏健派とされ、米国を含め国際社会との関係改善に前向きな姿勢を示しました」

「欧米諸国の側にもイランとの関係改善を進めなければならない事情がありました。内戦が続き大勢の難民が発生しているシリアのアサド大統領は、イスラム教アラウィー派というシーア派の分派に属しています。そのためイランはアサド政権を支援し、大勢の戦闘員も送り込んでいます。もしもイランがアサド大統領を説得して退陣させることができれば、シリアは和平に向けて大きく前進します。シリア問題を解決するには、イランと国際社会の協力が必要だったのです」

制裁解除は日本にも影響しそうですか。

「イランの人々は昔から日本という国に親近感を持っています。経済制裁が続いていた間も、欧米諸国と比べれば、日本とイランとの関係は比較的良好でした。国際問題の中で対イラン関係は、日本が独自性を発揮して欧米とのパイプ役を務める可能性も持てる数少ない『得意分野』だったのです。そうした日本の強みを生かしながら、拡大するビジネスチャンスをものにできるかどうか注目です」

ちょっとウンチク


内外に不透明な要素、見極めを
 中東は今、混迷を深める。幾重にもからみあう対立の軸をどこからほぐしていけばよいのか。核開発問題の決着に伴うイランの国際社会への復帰はその糸口になるはずだ。シリアやイエメンの内戦収拾でイランに期待される役割は大きい。
 イランは市場としても魅力的だ。企業は再参入に動き出している。2月に訪れたテヘランのホテルは、ビジネスの機会を探る欧州やアジアのビジネスマンであふれていた。日本企業も例外ではない。
 だが、イランの国際社会復帰を喜ぶ国ばかりではない。サウジアラビアは自国内の反体制シーア派をイランが支援しているとして1月に断交した。サウジとイランの対立は石油輸出国機構(OPEC)の生産協調を難しくし、原油安が長引く一因になっている。
 米国は次期大統領が誰になるかによって、イランとの融和路線を見直す可能性もある。イラン国内では保守強硬派の力も依然、無視できない。内外の不透明要素を見極めることも必要だ。
(編集委員 松尾博文)

今回のニッキィ


山浦 香織さん 教育機関勤務。最近、毎日の歩数や消費カロリーを計測できる活動量計を使い始めた。「寝ている間の睡眠の深さまで分かるので感心しています」
坂本 友実さん 趣味で動物の骨を集めているうちに、博物館などへ骨格標本や化石を納める会社へ入社。「集めた骨は美術の授業などで大活躍しています」
[日本経済新聞夕刊2016年5月2日付]

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