解剖 北朝鮮リスク 小倉和夫、康仁徳ほか編著日韓の研究者が多面的に分析

なぜ、経済的に苦境の国が、国際社会を敵に回すだけでなく、莫大な経費も必要な核実験やミサイル発射を、突然行うのか。この不透明さが「北朝鮮リスク」なのだろう。

(日本経済新聞出版社・3000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

「東アジア最大の地政学リスクの1つである」と本書は位置付ける。12人に及ぶ日韓両国の名うての研究者が分担執筆した本書は、北朝鮮の政治・軍事・経済・社会をめぐって、その現状分析、リスク認識、そして日韓協力のあり方を説く。たとえば北朝鮮のサイバー脅威は張哲運(慶南大研究員)論文でその深刻な実態がわかる。

北朝鮮問題は、核・ミサイル・拉致などの「攻撃性」と経済難・体制維持などの「脆弱性」の2つに分かれるという。周辺国によって問題解決の優先順位が異なるため、政策上の足並みがそろわない。これこそ、「6カ国協議が北朝鮮の核実験を阻止できなかった最も大きな理由」で、問題解決には「他国との連携が必要不可欠となる」と平岩俊司(関西学院大教授)は書く。クリアな分析と提言である。

韓国にとっては「攻撃性」よりも「脆弱性」のほうが恐怖だろう。康仁徳(元韓国統一相)は、韓国が最も憂慮するリスクを「急変事態」だと言明する。「北朝鮮住民の大規模蜂起、主要エリートの反乱などによって北朝鮮体制が短期間に崩壊し、住民統制力を喪失して周辺国家に悪影響を及ぼす状況」である。そうなれば、陸続きの韓国は激しい社会混乱が発生するだろう。韓国はその事態に備え、「統一につながるように徹底的に準備するなど、万全の対策を講じている」そうだ。

康は統一後の朝鮮半島像に関して、非核化、日米との伝統的友好関係維持、領土問題などでの民族感情に訴える感情的アプローチの自制などを主張する。康ら7人の韓国人執筆陣から、こうした冷静な見解が聞けるのも、本書の特徴である。小倉和夫(元駐韓大使)による、日本にとっての朝鮮半島論や急変事態後の政治的安定方策論は、歴史を遡った秀逸な論稿である。

執筆者は共同研究会のメンバーで、「北朝鮮が自ら核廃棄することは期待できない」「金正恩政権が体制強化や人民の支持取り付けのため、これまで以上に経済政策に力を入れている」という2点で見方がほぼ一致する。この現状認識のもと、まとめの章で政治指導者に次のように求める。「政策にメリハリをつけ、北朝鮮への圧力、インセンティブ(奨励策)とも、従来を上回る強力なメニューを用意する必要がある。少々の軋轢(あつれき)は覚悟すべきだ」と。正論である。

(静岡県立大学教授 小針 進)

[日本経済新聞朝刊2016年5月1日付]

解剖 北朝鮮リスク

著者 : 小倉和夫、康仁徳ほか編著
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 3,240円 (税込み)

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