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最近、「同一労働同一賃金」っていう言葉を聞くことがあるわ。いったい何だろう。わたしたちのお給料にも影響があるのかな。

「同一労働同一賃金」をテーマに、佐竹邦佳さん(26)と川嶋加奈子さん(40)が水野裕司編集委員に話を聞いた。

同一労働同一賃金って何ですか。

「いろいろな定義がありますが、基本は『労働の質と量が同じなら、同じ金額の賃金を払うべきだという原則』のことです。すでに、仕事が同じなら女性であることを理由に、男性との間で賃金に差をつけてはならないという『男女同一賃金』の規定があります。こうした考え方をさらに進め、政府は正社員(正規雇用)と、パートや契約社員、派遣労働者など非正規雇用の労働者の賃金の差に切り込もうとしています」

「たとえば、同じ会社の中で同じような仕事をしていても、パートや契約社員の賃金は正社員よりも安いことが日本ではごく普通です。これに対し、仕事が同じなら、パートや契約社員でも正社員と同じ賃金をもらえるようにするというのが同一労働同一賃金の原則です。どのようなやり方をすれば混乱が起きないか、専門家が議論しているところです」

欧州ではすでに一般的な制度だと聞いたことがあります。

「欧州連合(EU)は加盟国共通のルールとして、1997年にパートタイム労働指令、99年に有期労働契約指令、2008年に派遣労働指令を定めました。パートや契約社員、派遣労働者らに対して、正社員と比べて不利益な取り扱いをすることを原則として禁止したルールです。これは賃金だけでなく、休日や福利厚生も含まれます」

「ただし例外もあり、合理的な理由があれば、賃金に差をつけることも認めています。たとえばフランスでは、技能の向上を促そうと長期的に労働者に経験を積ませているなら、勤続年数に応じて賃金が上がっていくことを認めた裁判例があります。ドイツでも、持っている資格や学歴などが異なる場合は、賃金の格差が正当とされています」

「欧州も実態は、合理的な理由があることを条件に、同一労働同一賃金の例外を広く認める傾向にあるわけです。日本も、こうした欧州のやり方を参考にする方向です。どういった場合に正社員と非正規社員の賃金格差が不合理とされるのか、企業向けにガイドラインとしてまとめる見通しです」

なぜ、いまの日本で同一労働同一賃金が注目されているのですか。

「安倍政権の狙いは、非正規労働者の賃金を引き上げて、低迷している国内の消費を活発にすることにあります。いま国内消費は低迷したままで、景気の先行きに不安が広がっています。世界経済の不透明感から今春の大手企業の賃上げ率は昨年より勢いがなく、デフレ脱却に黄信号がともっている状況です。このままでは、安倍晋三首相の経済政策『アベノミクス』は失敗だった、と言われかねないでしょう。なんとか消費を押し上げるために、着目したのが非正規労働者の賃金というわけです」

「日本の非正規労働者の比率は80年代後半以降、大幅に上昇し、総務省の労働力調査によれば15年の平均は雇用者全体の37.5%に達しています。しかも年収(14年)をみると、国税庁の調査では正社員の478万円に対し、非正規社員は170万円と、正社員の35%にとどまっています。非正規労働者の賃金を引き上げれば消費を喚起する効果が大きいと考えて、同一労働同一賃金を打ち出したのではないでしょうか」

実現の見通しはどうですか。

「有力企業が加盟する経団連は、安倍政権のめざす非正規労働者の処遇改善自体には賛成です。正社員との賃金格差について、どんなケースが不合理とみなされるか、ガイドラインで明示することも歓迎しています。政府は5月にまとめる『ニッポン一億総活躍プラン』に同一労働同一賃金を盛り込み、その後、ガイドラインなど具体的なルールづくりに着手したい考えです。必要なら法改正にも踏み込むとしています」

「もっとも新たなルールは、『同一労働』であっても経験年数、責任の重さの違いなどを考慮し、賃金の差を柔軟に認めるものになる可能性が多分にあります。現状と大差ないところに落ち着くことも考えられるでしょう」

ちょっとウンチク


終戦直後から問題意識
 労働者保護の基本法である1947年施行の労働基準法は、第4条で男女同一賃金の原則を定めた。携わっている仕事が同じ場合は、男女間で賃金格差をつけることを禁止した規定だ。当時すでに「同一労働同一賃金」という言葉は経済学者や人事労務の専門家などの間でおなじみだった。
 47年刊行の長沼弘毅著「同一労働同一賃銀論について」は、「同一賃金」をめぐっては男女対等以外にも、さまざまな観点があると指摘している。業種は異なるが、同じ種類の仕事をしている人たちの賃金はどう決めたらいいか。働いている地域は違うが仕事内容が同じ場合はどうか。同一国内において、国籍の異なる社員の賃金はどう考えるか――などだ。
 近い将来、わが国が国際経済社会に参加しうることとなったあかつきには、これらは我々が即座に直面する重大問題である。少なくとも一考しておかなければならない――と著者は続けている。その後の日本の歩みをみれば、的確な見立てだったというべきだろう。
(編集委員 水野裕司)

今回のニッキィ


佐竹 邦佳さん 勤めていた会社を3月に辞め、転職活動中。最近、書道教室に通い始めた。「墨の香りで落ち着きますし、書きながら集中力も磨かれるようです」
川嶋 加奈子さん 仕事は英語の翻訳。週末はマンガ本を手当たり次第20冊ほど読む。「短いセリフでストーリーが展開していくところが、仕事の参考になります」
[日本経済新聞夕刊2016年4月25日付]

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