原型を考案した日体大総合研究所所長の武藤芳照・日本体育大教授(スポーツ医学)は「健康悪化の予防には転倒を防ぐことが重要」という点に着目。97年から東京厚生年金病院で転倒を防ぐための体操や生活上の注意点を指導する転倒予防教室を12年間続けた。

■幅広い参加促す

04年に転倒予防医学研究会を設立し、介護に携わる人らを対象に転倒予防の指導者の育成を進めた。今年4月、日本転倒予防学会を発足させた。運輸業や小売業など医療関係者以外にも幅広い参加を促すため、名称から「医学」を取った。

武藤教授によると、高齢者が転倒で骨折しやすいのは、手首や背骨、太ももの付け根の大腿骨近位部。特に高齢になり急激に増えるとされる太もも付け根部分の骨折は回復に時間がかかり、寝たきりになりやすい。骨折の経験者の生存期間が短くなるデータもある。

転びにくい体を作るには、毎日こまめに体を動かすことが重要。日光を浴びて散歩するのも効果的で、はだしで生活するなど足の裏の感覚を磨くことも大事だという。

武藤教授は「交通死亡事故が減少したのは、国や社会が『減らそう』という強い意志で動いた結果。急速な高齢化が進む中、同じような意志で転倒を減らすために社会全体が取り組む必要がある」と力を込める。

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■働き盛り世代でも多く 労災の2割、介護現場めだつ

働き盛り世代でも転倒事故は目立つ。2013年には約2万6千件と労災全体の約2割を占めた。最近は介護や福祉現場で職員らがけがをする事故が多い。

具体的には、入浴介助中にバランスを崩して転倒したり、こぼしたお茶でぬれた床で滑ったりするケースが報告されている。パートなど非正規雇用者が多く安全教育が浸透しにくいうえ、作業工程を一律に管理しにくい事情もあるようだ。

厚生労働省は(1)床の水たまりや氷は放置しない(2)確認してから次の動作に移り、走らない(3)階段には滑り止め、手すりを設ける――などの注意点を挙げ、予防策を学ぶ研修会を実施している。

(平野慎太郎)

[日本経済新聞夕刊2014年9月4日付]