怪しい彼女
痛快な皮肉と温かな共感
アジア映画を見る楽しみのひとつは、似ているようで似ていない各国の文化の差異を発見し、アジアの多様性を実感することだ。同時に近年は、どの国にもグローバリゼーションに伴う均質化の波が押し寄せており、それに対する反発という共通項も目立つ。とりわけ娯楽作品にはそんな空気がくっきりと表れる。この韓国映画も例外でない。
70歳のおばあちゃんマルスン(ナ・ムニ)は毒舌で気が強く、トラブルばかり起こしている。嫁はノイローゼで入院、息子は彼女を老人ホームに入れようかと考える。女手ひとつで育て上げた息子の冷淡さに衝撃を受けたマルスンは街に出て、オードリー・ヘプバーンの肖像が飾られた見慣れぬ写真館に入る……。気がつくと彼女の容姿は20歳のころの自分に戻っていた!
誰も気づかないのをいいことにオ・ドゥリ(シム・ウンギョン)という娘になりきった彼女の冒険が始まる。オードリーを思わせるおしゃれなファッションを身にまとい、遊び歩く。ただ口の悪さは相変わらずで、若者たちをやりこめる。
福祉施設のカフェでカラオケを熱唱するドゥリは、イケメンのテレビ局プロデューサー、スンウ(イ・ジヌク)の目にとまる。格好だけソウルシンガーでまるで魂のない今どきの若者たちに閉口していたスンウは「本物のソウル」を彼女に見いだしたのだ。ドゥリは頼りない孫のバンドのボーカルとなって、夢だった歌手デビューを目指す。
70歳の魂が20歳の肉体に宿るミスマッチを生かしたギャグは、年長者を尊ぶ儒教社会の韓国でひときわ生きる。さらに今日のポップカルチャーやグローバリズムの陳腐さを痛快に皮肉り、笑いのめしながら、世代を越えた共感が生まれ、家族の絆が回復していくさまを温かく描き出す。ファン・ドンヒョク監督による上質のエンターテインメント。2時間5分。
★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2014年7月11日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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