手足まひなど治療に新風 脳神経鍛えるリハビリ

病気や事故で傷付いた脳神経は治らない――。医療界で長く信じられてきた“定説”が見直されつつある。電気的な刺激で神経や脳に直接働きかけたり、脳内を可視化してイメージトレーニングをしたり。辛抱強くまひした手足を動かす従来の手法に加え、新しい技術で脳神経を鍛えるリハビリが注目されている。

演奏家の指回復

上智大などが開発したジストニア患者向けのリハビリ

「3年間、何をやってもよくならなかった右手の指の動きが回復しました」。

上智大学の古屋晋一准教授のもとに、臨床研究に参加した女性ピアニスト(45)からお礼のメールが送られてきた。女性は脳神経疾患のジストニアに悩んでいたが、リハビリの結果、回復した。女性が演奏する光景を映した動画では、10本の指が鍵盤の上をなめらかに動いていた。

ジストニアは楽器の練習などを長年続けた影響で発症リスクが高まるとされ、ピアニストの場合は酷使した指を制御する脳の部分に異常が起き、指が曲がったままになるなどの症状が現れる。音楽家の50人に1人がかかるとされ、作曲家のシューマンもジストニアで演奏をあきらめたという。

古屋准教授らが編み出したのは、頭の外側に電極を当て弱い電流を流しながら、健康な手と障害がある手を同時に動かすリハビリ。障害がある側が無理に動こうとして脳のバランスが崩れるのを電気刺激で抑え、回復を目指す仕組みだ。1週間に1度、1カ月程度繰り返す。

これまでにピアニスト10人に効果が表れた。6月以降、より大規模な臨床研究に着手する計画だ。古屋准教授によると、ジストニアだけでなく、脳卒中後のまひやうつ病に活用できる可能性もあるという。

従来、事故や病気で手足がまひするなどした場合、少しずつ動かすことで回復するリハビリが主流だった。これに対し、体を制御する脳神経に直接働きかける方法は「ニューロリハビリ」と呼ばれ、より効率よく効果をあげられると期待される。

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