■3分の2で減額

訪問診療を行う医師の英裕雄さん(都内の老人ホーム)

「在宅医療と介護の地域モデル」を掲げるいらはら診療所自体も、今回の改定でダメージを受けた。約350人の患者に訪問診療を行っているが、3分の2が減額対象となる高齢者向け施設の居住者。医師の数などから、訪問回数を増やすことは難しい。

業界団体「サービス付き高齢者向け住宅協会」(東京)が3月、訪問診療を実施する医療機関などを対象に実施したアンケート調査では、「看護師を同行しない」「診療時間を短縮する」などの意見があがった。

厚労省によると、4月末時点で在宅を担当していた医師がいなくなったと報告されたケースは全国で3件。既にいずれも代わりの医師が見つかったという。

しかし保険診療は実際に医療機関に技術料が支払われるまで時間がある。現在は様子見の医師も少なくなく、影響が本格的に出てくるのは夏以降とみられている。新宿ヒロクリニック(東京・新宿)の英(はなぶさ)裕雄院長は「新規に訪問診療をやってみたいという医師も出なくなってしまう」と懸念。今後、各地で混乱が表面化する恐れもありそうだ。

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■かじ取り悩む厚労省 悪質業者の存在が背景に

診療報酬の大幅な減額が打ち出された背景には、施設への訪問診療が割のいい“ビジネス”として成立するようになり、一部で悪質業者の存在が指摘されるようになったことなどがある。

厚生労働省によると、患者を紹介して報酬の一部を受け取る紹介業者が登場したり、報酬のキックバックを目的に訪問診療を受けることを居住者に義務付ける高齢者向け施設が出てきたりしたという。

厚労省医療課の宇都宮啓課長は「そもそも一般的な高齢者向け施設では、医療機関に通院できないと考えられる高齢者は3割に満たないはず。しかし施設によっては入居者の9割が訪問診療を受けていた」と指摘。「医療資源の効率的な利用を考えても問題がある」と説明する。

一方で厚労省は増え続ける医療費を抑制するため、医療機関のベッドを削減し、施設や自宅での在宅医療を充実させる方針を進めている。

在宅医療を手掛ける医療機関は11年時点で病院で28%、診療所で20%にとどまり、12年に診療報酬が引き上げられたのもこれらの割合を引き上げる狙いがあった。

医療関係者からは「在宅医療を行う診療所については、登録要件など報酬以外の締め付けもきびしくなっている」との指摘も聞かれる。厚労省もアクセルとブレーキとのバランスに苦しんでいるようだ。

(山崎大作、後藤宏光)

[日本経済新聞夕刊2014年5月8日付]

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