ウルフ・オブ・ウォールストリート
破滅型ヒーローに映る90年代
迫真の経済ドラマを期待すると肩すかしを食う。主人公は1980年代後半から90年代まで実在した株式ブローカーだが、極め付きの悪党だ。証券詐欺に資金洗浄。さらにドラッグとセックスで乱れ放題。周りはチンピラばかり。まともな証券マンは一人も出ない。
学歴も金もないジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は22歳でウォール街に飛び込む。稼ぎ頭の上司が昼から酒とコカインをやるのに驚き、仲買人の資格を得たその日がブラックマンデー。ひと月後、会社は消えた。
郊外でクズ株を売る仕事を得た彼は巧みな話術で頭角を現し、町の与太者を集めて証券会社を設立する。カリスマ的な弁舌で部下を鼓舞し会社は急成長。株価操作で巨万の富を得る。
豪邸を買い、モデルと再婚。フェラーリを乗り回し、ヘリ付きクルーザーで豪遊。職場のパーティーに楽隊やストリッパーまで呼んでバカ騒ぎ。モラルは皆無。当局ににらまれても悪びれず、隠蔽に走る。放逸はやまず、破滅へ突き進む。
まゆをひそめる向きもあろう。こんな不道徳な詐欺師を英雄視してよいのかと。誇張がすぎると。
確かにジョーダンには奇妙な魅力がある。同じマーティン・スコセッシ監督の「タクシードライバー」や「レイジング・ブル」の主人公に通じる破滅型ヒーローの魅力。時代の狂気が、彼らを破滅に向かわせる。
スコセッシが迫るのは無秩序だった証券界の内幕でなく、90年代という時代の精神だ。右肩上がりの幻想と手っ取り早い金もうけがそこらに転がっていた時代、誰もが狂騒の中にいた。
今、ジョーダンのような狼(おおかみ)はいない。破天荒な職場もない。耳を突く怒声も、血をたぎらす熱気もない。それは歴史になったのだ。
そんな時代をスコセッシは冷徹に見つめ、大胆なタッチで描き出す。感傷はない。2時間59分。★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2014年1月31日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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