選曲は「お任せ」で 人気高まるラジオ型音楽配信
東京都内に住む妊娠7カ月の主婦(35)は家事の最中、音楽配信アプリ(応用ソフト)「FaRao」(ファラオ)を搭載したスマホを卓上スピーカーにつなげ、音楽を楽しむ日々を送っている。スピーカーからはジャズやボサノバなど器楽曲が次々流れる。「妊娠中なので声楽より器楽曲が次々流れる方がリラックスできる。CDを取り換える必要がないのは便利」と語る。
使うほど精度向上
コンテンツ配信会社フェイスが今年1月に始めたファラオは、利用者が聴きたい歌手や音楽ジャンル、年代などを設定すると、50万曲以上の中から好みに合わせた曲が次々流れる。歌詞の内容や世界観、外見など歌手の特徴を約300種類に分類。利用者の嗜好と歌手の特徴を照合する独自技術を開発した。流れる曲の良しあしを聴き手が評価できる機能もあり、アプリを使うほど好みの精度が高まる仕組みだ。
楽曲の一部だけ聴けて曲の合間に広告が流れる無料モデルと、広告なしでフル楽曲が聴ける月額モデルを用意した。「普段聴く歌手や曲、ジャンルは限定しがち。自動配信により新しい音楽に出合う機会が増える」とフェイスの担当者は語る。6月からNTT西日本の光テレビサービスでも配信を開始。テレビ画面で設定すれば、リビングのBGMとして楽しめる。
ラジオ型配信は米国が先行している。その代表は2005年にサービスを開始した米パンドラメディア社で、曲の特徴を400項目に分類して聴き手の好みに合った曲を無料で自動配信している。世界で現在2億人超が利用登録しているとされる。その流れを受け、日本国内で独自の付加機能を加えたサービスが相次いで生まれている。
「聴き手のその時の感性にマッチした曲を流す」と胸を張るのは、データベース構築会社ソケッツの浦部浩司社長だ。6月に始めた配信サービス「LIFE's radio」(ライフズ)は、約50万曲について各曲の特徴を約2000種類に分類した。分類は楽曲構成やテンポといったわかりやすいものから、「朝」や「せつない」など抽象的な言葉による区分けもした。
この分類と、聴き手が設定した気分やそれまでの聴取履歴とを照合し、配信する楽曲を抽出する。「『せつない』という言葉も性別や年齢、場面に応じて意味合いが異なる。それを音楽で再現したかった」(浦部社長)。欧米のラジオ型は歌手や楽曲名に基づいて配信曲が選ばれる場合が多いのに対し、微妙な機微に配慮した日本人ならではのサービスにこだわったそうだ。
聴き手ごとの好みを反映させる機能は省き、定番のシチュエーションごとに豊富なチャンネルを用意したサービスも増えている。ネットサービス会社エムティーアイの「ListenRadio」は、楽曲自動配信のほかに全国のコミュニティーFM放送など100以上のチャンネルが聴き放題のサービスだ。
ボタン一つで購入
自動配信チャンネルには最新ヒット曲から、「ドライブ」「勉強中」など情景別もそろえた。NTTドコモやKDDIも音楽ジャンルや年代別に自動配信するサービスを展開している。
聴いているうちに気に入った曲が見つかったら、ボタン一つでダウンロード購入できる機能を備えたラジオ型配信が多い。日常聴いている定番音楽に飽きてきたら、自分でも気付かなかった曲との出合いを求め、ラジオ型配信を試してみるのが新たな音楽の楽しみ方になりそうだ。
(産業部 榊原健)
[日本経済新聞夕刊2013年9月12日付]
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