大阪市内に住むAさんは5年前の大学生の頃、酒を飲んだ帰り道に転び、頭を強打した。帰宅し翌朝、目を覚ますと視界の片側が見えなくなっていた。驚いて大阪大学医学部付属病院に駆け込んだ。
同病院の北川一夫准教授が磁気共鳴画像装置(MRI)などで調べると、脳動脈の一部で内側の膜が裂けて血液が流れ込む「動脈解離」が起きていた。血管の一部が詰まり脳梗塞を発症したと判断し、治療した。Aさんは視野が一部欠けるものの日常生活にはほとんど支障はないという。
脳梗塞は約100万人の患者がおり、約7万人が毎年亡くなっている。高齢になるほど多い病気だが、国立循環器病研究センターの豊田一則脳血管内科部長によると、おおむね45歳未満で発症する脳梗塞を若年性に分類している。年間1万人程度が発症するとみられている。
北川准教授は「脳梗塞の症状は若年でも高齢者でも同じだが、発症する原因は異なる例が多い」と解説する。中高年に多い通常の脳梗塞の主な原因は生活習慣による動脈硬化。高血圧や肥満、脂質異常、喫煙、加齢、過度なストレスなどが発症の危険を高める。
若年者では、これとは別の血管の病気などが引き金になっているケースが目立つ。例えばAさんのような脳の動脈解離。頭を打つなどの外傷だけでなく、ゴルフや野球などの運動中に首を急に回したのがきっかけで発症することもある。発症時は引き裂かれるような頭痛を伴いやすい。
豊田部長は「マッサージで首をもんだり、子供を肩車したりした際に起きた例もある」と話す。解離は首の動きで脳動脈が引き伸ばされて裂けたと考えられている。詳しい仕組みは分かっておらず、誰にでも起こりうると考えた方がよいという。