「たばこ」PM2.5の塊 脳卒中やがんリスク高まる喫煙の居酒屋は北京並み

中国で発生した微小粒子状物質(PM2.5)が大陸から飛来する越境汚染への関心が高まっている。ところが、身近なところに濃度が極めて高い場所がある。喫煙可能な室内だ。例えば、禁煙していない居酒屋だと、北京市の最悪時の濃度と変わらない。専門家は屋内の全面禁煙を訴えている。

「PM2.5はたばこの煙も危険だ」。医師らでつくる日本禁煙学会は2月、こんな見解を発表した。直径が2.5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル以下の微粒子は化石燃料や草木などが燃えたときに発生する。たばこの煙もそのひとつで、フィルターを介せずに周囲に広がる副流煙に多い。中国から飛来するPM2.5よりも「受動喫煙の影響の方が大きい」と主張する。

■ショッキングな数字

様々な研究者が実際に測定したデータをまとめた学会の資料には、ショッキングな数字が並ぶ。自由に喫煙できる居酒屋のPM2.5の濃度は空気1立方メートルあたり568マイクログラム。中国政府が「最悪」と評したときの北京市の大気とほぼ同じ水準だ。禁煙席でも、喫煙席とガラスや壁で完全に仕切られていない場合は同336マイクログラムに達した。

日本癌(がん)学会など18の学会でつくる禁煙推進学術ネットワークが2月下旬に公表した調査も、同じような結果だった。福岡市にある喫煙可能な喫茶店では同300マイクログラムを超えた。禁煙学会理事長の作田学医師は「禁煙学会に所属する医師たちは2006年ごろからたばこのPM2.5問題を訴えてきた」と話す。

国の環境基準値は1日平均で同35マイクログラム、環境省の検討会がまとめた外出自粛などを呼びかける暫定指針は同70マイクログラムだ。禁煙学会などのデータは環境省や自治体が発表する速報値に相当する。1日分の測定値から1時間分の平均を示す環境基準値とは単純には比較できない。ただ、大気汚染の速報値で同100マイクログラムを超すことはほとんどない。

「客なら滞在していても1~2時間なので影響は少なくて済む」。こう考える人もいるだろう。しかし、様々な研究から、多くの専門家が短時間でも悪影響はあると結論づけている。1日中いる従業員の場合はなおさらだ。産業医科大学の大和浩教授は「屋外の汚染を怖がるのなら、喫煙可能な喫茶店や飲食店を怖がってほしい」と話す。