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病気・医療

あらゆる症状の患者を診療・診断する「総合医」に存在感

2012/11/16 日本経済新聞 夕刊

臓器を問わず、あらゆる疾患に対応する総合診療部門を開設する病院が増えている。臓器別の専門分化が進み、専門外の病気や複数の病気を持つ高齢者の増加に対応できない弊害が目立ってきた事情が背景にある。専門医資格の検討も始まり、継続的、包括的に患者に寄り添う総合医の存在感が高まりそうだ。

奈良県天理市の近藤明さん(仮名、80)は8月中旬のある夜、胸の違和感を訴えた後、意識を失い、市内の天理よろづ相談所病院に救急搬送された。ももから尻にかけて大きな水疱(すいほう)があり、腎機能の低下も認められたため入院。総合内科の若手医師が担当して治療に当たることになったが、原因が分からない。

研修医や指導医らによる入院患者の症例検討会(東京・目黒の東京医療センター)

謎が解けたのは翌日の同科の症例検討会でのこと。近藤さんが帯状疱疹(ほうしん)の治療薬のほか鎮痛剤などを内服していたことを担当医が報告すると、ベテラン医師が「その薬が関係しているのでは」と指摘した。近藤さんは発症3日前から帯状疱疹となり、かかりつけ医からある薬を処方されていた。「その薬は腎機能障害の人が飲むと脳症を起こす恐れがある」

医師の推理はこうだ。普段から降圧剤を飲んでいた近藤さんが、帯状疱疹の痛みを抑える鎮痛剤を服用して薬剤性の腎機能障害となり、そこに帯状疱疹の治療薬を飲んだため、脳症による意識障害に陥った――。

診断力が真骨頂

このように、患者の症状から原因を解き明かして治療に道筋をつける「診断のプロ」としての役割が総合診療部門の真骨頂だ。

天理よろづ相談所病院総合内科は1976年に設置された国内初の総合診療部門。「それまでの臓器別に専門分化した診療体制では、疾患を併せ持つ患者に対応できなかったり、専門外の病気を見逃したりしていた。そこで、総合診療部(現総合内科)を設け、幅広く患者を受け入れるとともに、研修医教育にあたることになった」と八田和大部長。

現在は、医師5人と研修医が、紹介状を持たずに総合外来を訪れた患者や、外科などで手術を受けた後の患者などを診る。担当した医師は専門診療科と連携しながら診療にあたり、例えば狭心症の患者に胃潰瘍が見つかれば消化器内科に移すが、担当医は変わらない。「日常的な病気から複雑な“応用問題”まで、様々な症例を受け持つので、医師の診療能力が鍛えられる」と同部長。包括的、継続的、効率的な医療を提供するのも特徴だ。

国立病院機構東京医療センター(東京・目黒)の総合内科は1日あたり平均127人の入院患者を担当し154人の外来患者を診療する国内最大級の総合診療部門だ。週3日開く症例検討会には研修医を含め約20人が集まる。「91歳女性、尿路感染の疑い」「86歳女性、敗血症による発熱」……。ある日報告された6人の新入院患者のうち5人は65歳以上の高齢者だった。

患者の70~80%は高齢者。90代や100歳以上も珍しくない。鄭東孝医長は「多くが糖尿病や高血圧、認知症など複数の疾患を合併しており、1つの臓器別専門領域に特化した専門医には扱いづらいケースが多い。総合内科が多様な患者の受け皿となることで、専門診療科は専門領域の技術が必要な患者の治療に専念できる」と話す。

総合診療部門は90年代から各地の総合病院に開設され、現在は数百に達するとみられる。形態は多様で、名称も総合診療科(部)や総合内科など様々だ。

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