国内では2000年以降に普及したが、最近はケア中や実施後に赤ちゃんの容体が急変するケースが報告されている。施設側の対応がまずかったとして、保護者が損害賠償を求めた訴訟は全国に少なくとも5件あり、いずれも係争中だ。保護者側は「ケア中の経過観察を怠った」などと訴え、施設側は「原因不明」などと主張している。

昨年11月には被害を訴える患者・家族の会が発足した。支援する羽田野節夫弁護士(福岡県弁護士会)は「病院から『原因は分からない』と言われ、保護者が泣き寝入りするケースはまだあるはず。ケアに危険が潜んでいることを知ってほしい」と話す。

久保田産婦人科麻酔科医院(福岡市)の久保田史郎院長も「赤ちゃんは自分で頭の向きを変えられない。うつぶせで母親の柔らかい乳房に密着すれば、窒息のリスクが高まる」と説明。胎内との温度差を小さくするため室温は高めに設定し、座った状態で赤ちゃんを抱くことを推奨する。

体の機能不安定

カンガルーケアは安全なのか――。専門家の多くはケア自体に危険性はないとしたうえで「赤ちゃんは一般的に、体の機能が不安定。ケアをする場合、施設側が十分な観察をする必要がある」と指摘する。

日本周産期・新生児医学会副理事長で国立成育医療研究センター(東京・世田谷)の久保隆彦・周産期センター産科医長によると、出生直後は赤ちゃんが胎外の急激な変化に適応する時期で、自分で呼吸できないなど重篤なケースが1万人に10人程度の割合で起きるという。

久保医長らが10年に全国585施設から回答を得た調査では、65.4%がカンガルーケアを実施。13万8534人の赤ちゃんのうち21人がケア中に容体が急変していた。1万人当たりに換算すると約1.5人で、久保医長は「ケアにより容体急変が起こりやすいとは言えない」と話す。

この調査では、施設の安全対策などの不備も浮かび上がった。ケア中に医療従事者が常駐する施設は74.8%だったが、急変に対処するためのモニタリング実施率は49.9%にとどまった。マニュアルを整えている施設は30.7%で、中断・中止の基準を設定しているのは39.9%。実施前、妊婦に事前説明し同意を得ている割合も48.2%と半数を切っていた。

久保医長は「ケアそのものは安全で問題ないが、生まれたばかりの赤ちゃんは容体が急変することを施設側は認識しなければならない。十分な観察と管理体制を整えることが必要だ」と話している。

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早期母子接触に名称変更の機運