アウトレイジ ビヨンド
ドライな男の死の世界
2010年にヒットした『アウトレイジ』の続編。前作のラストで刺殺されたはずの主人公・大友が甦り、新たな暴力抗争の火蓋が切られる。
関東の暴力団・山王会は、会長(三浦友和)と金庫番(加瀬亮)のコンビで成功し、政界にまで手を伸ばす。それを快く思わぬ古い幹部(中尾彬)らは、関西の花菱会の若頭(西田敏行)たちと提携して、山王会の権力を握ろうとする。
この対立を利用して山王会の利権独占を揺さぶるのが、警視庁の暴力団担当の刑事・片岡(小日向文世)である。片岡は、刑務所を出た大友(ビートたけし)と、かつての大友の敵・木村(中野英雄)とを組ませ、山王会への怨(うら)みを梃子(てこ)に抗争を仕掛けさせる。かくして、血で血を洗う殺戮(さつりく)と報復の連鎖が始まる。
かつて『仁義なき戦い』の名脚本家・笠原和夫は北野武作品のシナリオの弱さを指摘した。『仁義なき戦い』を祖型とする群像暴力劇である『アウトレイジ』2部作を作るにあたって、北野監督は笠原の批判に応えるように、脚本をじつに精緻に練りあげている。とくに本作『アウトレイジ ビヨンド』では、無駄な脇筋を完全に排し、玉突きの玉が次々に正確な衝突の軌跡を描きだすように、冒頭から結末まで見事なドラマが緊密に連繋する。
だが、それはユーモアによる緩和も、女の彩りもない、最高にドライな男の死の世界だ。現世利益と延命を画策する会長や金庫番は見苦しい最期を迎えるが、初めから死を覚悟している木村には綺麗(きれい)な死が訪れる。トリュフォーがホークス監督『暗黒街の顔役』の随所に死の記号であるバツ印を見たように、木村の顔には最初からバツ印の傷跡が刻印されているのだ。一方、主人公は生き延びてしまうが、彼に本当に相応(ふさわ)しいのは、『ソナチネ』のラストのような自死であろう。1時間52分。
★★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2012年10月5日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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