夢売るふたり現代女性の渇きを反映

緻密な自作脚本で人間心理の機微を描いてきた西川美和監督の4作目。若い夫婦が再出発の資金を稼ぐために、寂しい独身女性たちを狙って結婚詐欺を仕掛けるという奇妙な物語だ。

東京・新宿ピカデリーほかであす公開(C)2012「夢売るふたり」製作委員会

一本気の板前、貫也(阿部サダヲ)と妻の里子(松たか子)は苦労して開いた店を火事で失う。覇気をなくした夫の一夜の浮気に気づいた妻は、夫を責めながら、ある企(たくら)みを思いつく。

夫をエサに、女を釣る。結婚話をちらつかせて、金を巻き上げる。筋書きを作って裏で糸を引くのは妻。美人局(つつもたせ)の男女反転形だ。

仕事に不満な会社員(田中麗奈)、男運の悪い風俗嬢(安藤玉恵)、父を介護するシングルマザー(木村多江)、五輪を目指す重量挙げ選手(江原由夏)……。現代の東京には孤独な女があふれている。寂しげで優しい貫也に心を許し、貢ぎ始める女たち。西川は彼女らをいとしげに描く。

一方の里子は冷徹だ。最初の不貞への腹いせもあり、夫を酷使、蓄財に励む。店の再開という目標だけが、夫婦でいる理由なのだ。

しかし黒幕の里子は決して愛の主体にはなれない。女としての欲求不満は募る。その渇きを西川は辛辣に、生々しく描き出す。

これまでもっぱら男を主人公としてきた西川が、初めて挑んだ女の物語だ。主体的に行動するのは女ばかり。だまされる女たちにも、だます女にも、現代女性の渇きが色濃く反映する。

「蛇イチゴ」「ゆれる」で家族という限定された人々の心理劇を、限定された空間で濃密に描いた西川。「ディア・ドクター」で初めて不特定多数の社会の心理を映し出したが、舞台は小さな村だった。東京という広漠とした都市の様々な孤独を描くのは新たな挑戦。男女の心理の絡みを具現化するアクション場面も新鮮だ。盛り込んだ要素が多く消化不良の感もあるが、映画作家としての野心は買う。2時間17分。

★★★

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2012年9月7日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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