かぞくのくに
複雑な思い、濃密な劇空間
韓国と北朝鮮という南北分断の悲劇を抱えた在日コリアン2世として、自らの家族を描いたドキュメンタリー映画「ディア・ピョンヤン」と「愛(いと)しきソナ」で話題を呼んだヤン・ヨンヒ監督。その彼女の初めての劇映画であるが、やはり自分と家族の経験に基づいてドラマ化している。
物語は、1959年から始まった帰国事業で、16歳の時に家族と別れて北朝鮮に渡ったソンホ(井浦新)が病気治療のため25年ぶりに日本に戻ってくるところから始まる。彼を迎える両親や叔父、また友人たち。そんな家族の日々が妹のリエ(安藤サクラ)の視点から描き出されていく。
ソンホが最初に家族に紹介するのは、同行する監視役のヤン(ヤン・イクチュン)。前半は、ヤンの存在もあり、またソンホも友人たちと再会しても口数が少なく、何となく遠慮がちな空気を人物間に生み出しながら、それぞれの複雑な思いが渦巻く雰囲気を巧みに醸し出している。
そんな雰囲気が変わるのは、ソンホがリエを工作員に誘い、それを知った父親と口論する時。ソンホの本音と怒りや父親の自責の念が噴出。後半は、それぞれの家族や祖国、また今後の生活などへの思いが浮き彫りにされ、政治による不条理な抑圧を考えさせる密度の濃い劇空間となる。
監督自身の姿を投影したリエを演じる安藤をはじめ演技陣が素晴らしい。例えば、帰国命令で空港に向かう自動車に乗り込むソンホの腕をリエが握って離さないシーンなど、俳優たちの止むに止まれぬような振る舞いや仕草が強い印象を与える。
ヤン監督の前2作は個人映画の色濃いドキュメンタリーであるが、描かれた世界は普遍的な広がりを帯びていた。その誰もが納得できる世界を、初めてフィクションとして築き上げた監督の力量は評価したい。1時間40分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2012年8月3日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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