苦役列車
鬱々とした日々、生き生きと
一昨年下半期の芥川賞を受賞した西村賢太の同名小説の映画化である。小説家本人の生きざまを投影した私小説を、いまおかしんじが脚色し、「マイ・バック・ページ」の山下敦弘が監督。日雇い労働をしながら鬱々とした日々を送る主人公の姿を、その屈折した内面と共に生き生きと描き出している。
時代は、バブル経済に突入した1980年代後半。19歳になる北町貫多(森山未來)の生活は、日雇い労働に明け暮れ、稼いだ金銭は酒代に消え、安アパートの家賃も滞る有様。中学卒業後、知り合いもなく、一人ぽっちで物憂い日々を過ごしているが、いつか小説家として身を立てることを夢見ている。
そんな貫多の孤独な日常に変化が訪れるのは、職場で知り合った専門学校生の正二(高良健吾)との出会い。貫太にとって正二は初めての友達となるが、正二は何事にも器用で要領のよい若者であり、根っから不器用で内向的な貫多との仲は次第にぎくしゃくして、やがて貫多は元の孤独な生活に戻る。
映画は、主人公のうだつが上がらない境遇を、日雇いの仕事場に行くバスや昼休みの食事、風俗店通いやアパートの暮らしぶりなどで描いていくが、貫多に扮(ふん)する森山未來がいい。その風貌と存在感が巧(うま)く合っていて実に現実味がある。
原作と違うのは、古本屋で働く康子(前田敦子)の存在。彼女と向き合わせることで、主人公の孤独さと不器用さを強調している。また、飲み屋で喧嘩(けんか)した主人公が幻想の中で安アパートに戻って原稿に向かうシーンも原作にはないが、これは少々予定調和の匂いがしてならない。
山下監督は、粗忽(そこつ)で無様な生き方をしている人物を描くのに長(た)けているように思う。本作は、若者の引きつるような鬱屈した心情を巧く醸し出している。1時間53分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2012年7月13日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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