生活のリズム生まれる

「和太鼓教室龍」(東京・杉並)にも約200人の受講者が集まる。初心者なら週に1度1時間の教室に、月3回通うのが基本だ。平日は女性が、週末になると男性が目立つ。年齢層は30~50歳代が中心という。この教室を主宰する演奏家の河野陽子さんは「楽しくたたくことが第一。演奏を終えたときの爽快感は最高」と話す。

和太鼓仲間ができると、練習に参加する生活のリズムが生まれる。体調が悪いときは「練習日までに治そう」と意欲がわき、仕事がたまっていても「教室の日は残業をやめよう」と気持ちを切り替える。和太鼓の楽しさが心構えを変えるようだ。

伝統芸能の保存や音楽療法の一部として、和太鼓を使う教室は以前からあったが、リズムを刻む脇役的な存在にとどまっていた。1990年代後半から和太鼓を演奏するプロ集団の活動が各地で盛んになり、演奏を聴いて触発される人が増えたようだ。

米国でも、打楽器を使う音楽療法が地道に広がり、参加者をまとめ演奏を指導する案内役「ドラムサークル・ファシリテーター」が誕生した。この動きは日本にも上陸し、演奏家や福祉関係者ら約100人がメンバーとなる会員組織が04年に発足した。各地で開催するイベントには年間1万人ほどが参加するという。

和太鼓演奏が、全身運動になり、低音や拍動がもたらす精神的な効果は経験的に知られていた。しかしまだ、和太鼓演奏の効用が科学的に実証されたわけではない。

仕組み解明はまだ

太鼓センターは、関西学院大学やびわこ成蹊スポーツ大学の協力を得て、和太鼓をたたいたときの脳血流を計測するなど、心身への影響を調べた。演奏中は脳の活動が活発になり、演奏後には脳がリラックスした状態になる様子が分かったという。

こうした結果は、脳科学の分野では「当然出現するデータ」で、なぜそんな反応が起きるかは依然、ベールに包まれている。文教大学人間科学部の石原俊一教授は、経験的な効果を認めながらも「科学的な証明は非常に難しい」と強調する。

詳しいメカニズムは不明でも、和太鼓演奏は非日常的なリフレッシュ方法で、「1度やってみたい」と引きつける魅力がある。日本の洗練された文化を世界に唱える「クール・ジャパン」の一つといえるだろう。

(編集委員 永田好生)

ひとくちガイド
《本》
◆和太鼓の種類からバチの持ち方、基本的な動作などを豊富なイラストで分かりやすく解説する
「はじめての太鼓 よーいドン!」(小野美枝子編著、浅野太鼓文化研究所)
《ホームページ》
◆和太鼓に関するイベント情報や各地の太鼓グループなどを紹介する特定非営利活動法人
日本太鼓協会
http://www.taikojapan.com/

[日本経済新聞朝刊2012年7月8日付]

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