手書きメモ、楽々デジタル化 スマホ対応ノートの実力
スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)で撮影した内容をデジタル保存できるスマホ対応ノートを使う社会人や学生が増えている。メモしたページをカメラで撮影するとスマホ内やネット上に一括保存。デジタルなので冊数が増えてもかさばらずにスマホで持ち運べる。日付などから目的のページを瞬時に検索。メールで情報共有もしやすく人気に拍車がかかる。
「2カ月前のミーティングで確かメモしたはずのあのノート、どこだっけ」――。業界に先駆け2011年2月にスマホ対応ノートを発売したのはキングジムだ。「ショットノート」は、開発担当者の日常の悩みから生まれたアイデア商品。メモを探すだけで15分近くも時間を無駄にした体験から「手で書いた内容を瞬時に検索できるノートを作ろう」と考えたのがきっかけだった。思いついたアイデアがスマホとの連携だ。
目標15万が実売100万
当初見込んでいた初年度の販売目標は15万冊。それが4月時点で100万冊を突破。「一度購入すると、『これは便利』と買い増すリピーターが多い」(広報室の三浦なずなリーダー)。撮影のための専用アプリ(応用ソフト)のダウンロード件数は累計で30万回。1人約3冊を購入している計算になる。
思わぬヒットを受けてこの1年でラインアップも一気に拡充させた。当初はメモ帳だけだったが、リングノートやルーズリーフ、付箋メモ帳などを相次ぎ投入。現在は全33アイテムをそろえている。
通常のノートをデジタルカメラで撮影する方法もあるが、斜めに写したばかりに後でスマホで見ると内容が判読しにくくなりがち。スマホ対応ノートの優れたところは撮影後デジタル処理で補正をかける点にある。
スマホ対応ノートをよく見ると各ページの四隅にマークなどが設けてある。これが補正する起点として働き、専用アプリで撮影するとマークなどを基にカメラとノートの位置関係を算出する。この情報を用いて、斜めに撮影した画像でも真正面から見た状態に整えてくれる。
コクヨグループで文具製造販売のコクヨS&Tが11年9月に発売した「キャミアップ」も好調だ。初年度20万冊の販売目標を早々に達成し、4月までに50万冊を販売した。「大学生の間で、記録した授業のノートをデジタル化して勉強仲間と交換し合うのがはやっている」(事業戦略部の上土井朋子プランナー)
マークで目的別分類
さまざまな利用シーンで役立つ独自の工夫が「アクションマーカー」。ノートの左隅にマークシート式の枠を設けており、塗りつぶし方に応じて特定の処理を実行できる。「指定した宛先にメールで発信する」「情報保管サービスのエバーノートに送信する」「クラウド型データ保管のドロップボックスに格納する」などだ。
タグと呼ばれる整理分類のための検索キーワードを撮影したページごとに付加情報として埋める目的でも使える。例えば塗りつぶしなしなら「議事録で永久保存」、左側3分の1を塗りつぶすと「個人のメモ」といった具合だ。検索時にはタグの付いているページを瞬時に絞り込める。学生の心をつかんだのはこのアクションマーカーだ。授業の科目別にノートを手間要らずで分類整理でき、特定のページをすぐに仲間に届けられる。
利便性は主婦の心もつかみ始めている。「子供に落書き帳としてスマホ対応ノートを与え、できあがった"作品"をママ友に自慢したりメールで祖父母に送ったりする」(キングジムの三浦リーダー)
スマホとノートの親和性を高めるために生まれたアイデアの成功が各社の文房具開発の現場を大いに刺激する。事務用品のナカバヤシや手帳大手のダイゴー(大阪市)がスマホのカレンダーアプリと連携する紙の手帳を発売。キングジムは壁に貼り付けるホワイトボードをショットノートの姉妹品として今年2月に追加した。
アナログ製品が次々とデジタルに替わるなか、アナログとデジタルが共存する文房具。スマホ対応ノートは改めて手書きなどアナログの良さを再認識させてくれる。
(産業部 高田学也)
[日本経済新聞夕刊2012年5月31日付]
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