相馬看花
被災地の変化、的確に記録
昨年の東日本大震災から早や1年2ケ月余が経(た)つ。この間、多くの映画監督や映像作家が被災地で惨事の痕跡や復興する人々の姿をカメラに収めている。本作もその一つ。前作「花と兵隊」で高い評価を得た松林要樹監督が震災後に被災地に入って撮影を始めたドキュメンタリー映画である。
映画は、3月11日、東京のアパートで監督が地震の大きな揺れをカメラに収めるところから始まる。自身が体験した震災の揺れを撮影した映像は個人映画作家の作品に見られるが、本作も個人映画の良質な部分を巧みに取り込んで事態の深刻さを描き出していく。
震災から3週間後、監督は支援物資のトラックで南相馬市に向かい、そこで市議会議員の田中京子さんと出会う。田中さんの家は原発事故による警戒区域内にあるが、監督はカメラを持って、自宅近辺のパトロールや避難所、また仲間と運営する直売所など、田中さんの活動に同行する。
ドキュメンタリー映画の魅力の一つは、撮影対象にいかに密着取材できるかどうかにかかわっているが、監督と田中さんの出会いが映画に決定的な広がりをもたらしたのは事実だ。それは幸運とよくいわれるが、その幸運を招き寄せたのは監督の才能でもある。
監督は田中さんの家族や友人とも親しくなり、例えば警戒区域への立ち入りが法的に禁止される前に、田中さんの夫から2人が結婚式を挙げた神社の桜を撮影してほしいと頼まれる。カメラはまるで田中さんの家族の一員かのように、被災した人々の有りのままの姿を内側からとらえていて説得力に富んでいる。
時間順という単純だが的確な構成で展開され、被災地の変化する様子や環境が描かれており、貴重な記録になっていて評価できる。本作は第1部「奪われた土地の記憶」であり、第2部の完成にも期待したい。1時間49分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2012年5月18日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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