捜査官X
謎解きとクンフー、異様な迫力
「ラヴソング」(1996年)のピーター・チャン(陳可辛)監督の最新作は、ミステリー・ドラマとクンフー・アクションを融合させた異色作である。

舞台となるのは1917年、日本でいえば大正時代の中国・雲南省、山間の村。2人の男が死ぬ事件があり遠くはなれた町の警察署から、捜査官がくる。これが金城武。警察官というより書生のような身なりで、名探偵のように神経をとぎすましたオーラをはなつ。
死んだ2人は、村の両替商に押し入った強盗で、1人は武術の心得があり、1人は刃物をもっていたのだが、いあわせた紙すき職人の男を追いまわすうちに、同士討ちなどして自滅したと村人たちは証言する。
何がおこったかは、観客も見ている。たしかに職人は逃げまわっているだけに見えた。しかし、演じているのが当代一のクンフー・スター、ドニー・イェン(甄子丹)で、映画の原題は「武侠」なのだから、これが映画的叙述トリックであることは、すぐわかる。
わかっていながらも、真相を究明していく金城の、武術と人体の医学的解明などの知識を動員した推理の過程がおもしろい。理性とおどろおどろしさが混ざった、本格探偵ものの雰囲気をかもし出している。
後半は、本格武侠アクションとなる。正体のバレたドニー・イェンは、彼をねらって襲来する殺人教団と対決することになる。
悪役で2人のスターが登場。これが衝撃的である。
80年代に美人拳士としてならしたクララ・ウェイ(恵英紅)、そして13年ぶりのカムバックとなる「片腕ドラゴン」(72年)の"天皇巨星"ジミー・ウォング(王羽)! 2人とも、こんな極悪人を演じたのは、はじめてだろうが、非常な好演。
おどろおどろしさが、アクション・シーンにもたちこめ、異様な迫力だ。
撮影の美しさも印象的。1時間55分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2012年4月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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