運命の子
濃厚な人間関係と様式美
原題は「趙氏孤児」。「史記」の「趙世家(ちょうせいか)」にあり、古くからさまざまに戯曲化されてきたエピソードだという。それを「始皇帝暗殺」(1998年)などのチェン・カイコー(陳凱歌)監督が、新解釈でみずから脚本をかき、映画化した。
この監督のこれまでの古代もののようなスペクタクルは、ひかえめで、ドラマのおもしろさに焦点があわされている。特に序盤にそのよさが凝縮され、劇的に濃厚な人間関係が、様式美のあるアクションとともに一気に走り出す。
紀元前6世紀の晋の国。趙盾は宰相、その息子、趙朔(ちょうさく、ヴィンセント・チャオ/趙文卓)は大将として武勲はなばなしく、君主の姉、荘姫(そうき、ファン・ビンビン/范冰冰)を妻にし、まもなく子をもうける。
君主の側近でいながら、地位も子も妻もない武将、屠岸賈(とがんこ、ワン・シュエチー/王学圻)は、趙氏の栄華をねたむ。ある手段で君主を暗殺した屠岸賈は、その罪を趙盾に着せ、趙一族をすべて殺せと兵に命じる。
荘姫は、男の子を産んでのち自害。医者の程嬰(ていえい、グー・ヨウ/葛優)が、趙氏最後の一人となったこの子をあずかることになる。
ところが、この直前、程嬰の妻も男の子を産んでいた。屠岸賈の赤子狩りで、程嬰の子と妻が殺され、趙氏の子が生きのこる。
ここから、この映画の主人公、程嬰の長く奇妙な復讐がはじまるのである。
古典的な劇では、仇(あだ)討ちの動機は「忠義」に集約されたらしいが、ここではそうした単純化はとらず、小人物である程嬰の運命に耐えるすがたによりそう。名優グー・ヨウの演技のみせどころである。
しかし、この復讐のあまりの気の長さに、映画自体のかたりくちもフラつき、中盤以降、冗長になっていくのは残念だ。2時間8分。
★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2012年1月6日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。