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無言歌 過酷な歴史、リアルに描く

2011/12/2 日本経済新聞 夕刊

政治は過酷である。虐げられた民衆の解放をスローガンに掲げた共産党指導による現代中国でも例外ではない。その一つに反右派闘争がある。

ワン・ビン監督の初の長編劇映画 (C)2010 WIL PRODUCTIONS LES FILM

1956年に毛沢東は「百花斉放・百家争鳴」という共産党指導部の批判を許容する運動を始めたが、その後、方針を百八十度転換し、批判した人々を厳しく粛清。右派分子と見なされた人々は労働改造という名の下に収容所に送られ、多くの人々が命を失った。そんな収容所を舞台に、本作は歴史の忌まわしい記憶をリアルに描いている。

60年、中国西部に位置する甘粛省のゴビ砂漠にある収容所。囚人たちの生活は、昼間は不毛な荒地を開墾する炎天下の労働に従事し、夜は砂山の下に掘られた穴倉で眠る。

食糧不足から配給の食事はお粗末であり、飢餓寸前の状態である。しかも冬期になると厳しい寒さに耐えなければならず、亡くなる人が絶えない。

班長の陳(リェン・レンジュン)は、所長から病人の看護を任せられるが、飢餓状態から仲間の死体を狙う囚人も出る有様。元医者の董(ヤン・ハオユー)は、李(ルウ・イエ)に自分の死後のことを頼む。董が死んだ後、彼の妻が訪ねてくるが、夫の死を知って絶叫する。それを見た李は脱走を決意する。

凄(すさ)まじい悲惨さである。ここには希望はほとんど見られない。これが当時の現実だったのだろう。人々が忘れてはならない歴史の痛みの再現である。下手に希望のドラマとして描かれるよりも、この過酷な状況のリアリズムに徹した描写はずっと胸に響いてくる。

「鉄西区」のワン・ビン監督による初の長編劇映画である。ドキュメンタリー作家らしく徹底した調査に基づき、政治的抑圧下の生の尊厳を見つめている。1時間49分。

★★★★★

(映画評論家 村山 匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2011年12月2日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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