ゴモラ
緊張感途切れぬ群像劇

荒々しい迫力のみなぎる活劇である。同時に、激しい憤りに満ちた骨太の社会派ドラマでもある。
題材はイタリア南部を牛耳る犯罪組織カモッラ。麻薬や武器の密輸といった犯罪だけでなく、産業廃棄物処理やファッションなど真っ当な事業にも手を伸ばし、違法行為と暴力を駆使して、莫大な利益をあげる。カモッラが抹殺した人間は30年間で1万人、事業収入は年間1500億ユーロと推定される。まさに悪の経済帝国なのである。
映画『ゴモラ』は、カモッラの活動に生きる人々を同時多発的な群像劇として描きだす。カモッラの兵隊として殺人予備軍に進んで志願する子供たち。組織の内紛に引きずりこまれる初老の帳簿係。産業廃棄物の大規模な違法投棄に関わって苦悩する青年。中国人縫製業者の誘いでカモッラを裏切るオートクチュールの仕立て職人。犯罪者に憧れて武器を盗み無軌道な犯罪を重ねる若者たち。これら5つの異なった物語が巧みなモザイクのように組みあわされ、一つの映画として大きな潮流を作っていく。
こうした劇作術はすでにアメリカのアルトマンやソダーバーグが巧みにこなした手法だが、『ゴモラ』の特色は、ドラマを描く映像そのものに独特のスタイルが貫かれていることだ。マフィア映画の定番で、息づまる強烈な暴力描写にもこと欠かないが、単なる見せ物に終わらず、カットを割らない長回し、手持ちカメラの無造作に見えて計算された動き、役者の顔のクローズアップの魅力、ロングに引いた構図の面白さ等々、画面にハードボイルドな個性が溢(あふ)れている。
ロケ撮影でイタリアの荒涼とした風土を生々しく定着し、2時間15分の長尺を緊張感の切れ目なく見せるマッテオ・ガッローネ監督の力量は、大いに称賛に値する。
★★★★
(映画評論家 中条 省平)
[日本経済新聞夕刊2011年10月28日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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