パレルモ・シューティング死の影さすロードムービー

1970年代半ば、瑞々(みずみず)しいロード・ムーヴィー(旅の映画)で一世を風靡したヴィム・ヴェンダース監督も今年で66歳。永遠の青年然とした風貌はさすがに失われたが、本作もまた鮮烈なロード・ムーヴィーだ。しかし、そこには濃い死の影が差している。

フィン役のカンピーノ

主人公フィンはドイツの写真家で、撮った写真を自在にデジタル加工する手法で人気を博している。だが、いくらでも加工変形できる写真が「真実」を「写す」といえるのか? フィンはデジタルとアナログという写真の手法のなかに、虚構と現実、虚偽と真実の裂け目を見て悩んでいる。

そんなおり、フィンは、妊娠したモデル(ミラ・ジョヴォヴィッチ)を撮影する仕事で虚構の空しさに気づき、モデルを誘ってイタリアのパレルモで撮影をやり直す。パレルモはフィンが夢から啓示を受けた場所だった。「夢はもうひとつの真実の場だ」という命題は、『夢の涯てまでも』以来、ヴェンダースの重要なテーマである。

パレルモのロケ撮影が素晴らしい。街を描くヴェンダースの映像感覚の冴(さ)えに陶酔させられる。

だが、パレルモは有名な壁画『死の勝利』に象徴されるように、死の影に包まれた街だった。フィンは死神の放つ矢に狙われるようになる。ここで映画は生と死の寓話(ぐうわ)へと一転する。ヴェンダースの傑作『ベルリン・天使の詩』の天使とは対照的に、この映画では死神が重要な役割を果たす。ラングの『死滅の谷』かベルイマンの『第七の封印』の現代版という印象だ。生と死の意味について問いかける死神の役を、亡くなる直前の名優デニス・ホッパーが演じている。

全編に鳴り響くロックの活用も含め、いかにもヴェンダースらしい奔放さにあふれた力強い映画である。1時間48分。

★★★★

(映画評論家 中条 省平)

[日本経済新聞夕刊2011年9月2日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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