コクリコ坂から
祝祭的雰囲気、まるでお伽話
宮崎駿の企画・脚本による、宮崎吾朗監督第2作。前作『ゲド戦記』のファンタジーからがらりと変わって、東京オリンピック直前の日本を舞台にした学園恋愛ドラマである。
ヒロインの海は高校生で、横浜の高台にある自宅で毎朝、信号旗を上げる。船乗りだった亡父に思いを捧げるためだ。この旗を港のタグボートから目撃し、信号旗の返事を送る少年がいた。海と同じ高校に通う俊である。まもなく二人は出会い、淡いが確かな恋の感情にとらえられる。だが、海と俊には、互いの父母にさかのぼる複雑な因縁があった。二人の恋は果たして全うされるのか?
作中で俊が語るように、この恋物語は「まるで安っぽいメロドラマ」にも見える。あっさり描いているので不快感はないが、それでもなんで今さらこんな因果話を、との疑問は残る。
原作はいかにも「なかよし」風の少女マンガだが、映画のポスター絵(宮崎駿作)に見られるように、水彩画のごとく柔らかな空気と光と色どりが導入されて、映画空間の広がりを感じさせる。だが、肝心のキャラクターの動きがあまりにも機械的で、その空間と齟齬(そご)を生じている。
とはいえ、良質のアニメとして楽しめるのは、主筋の恋物語よりも、学校の古い建物を改築から守る高校生たちの運動というサブストーリーが、今はなき旧制高校のバンカラな気風への憧れを謳歌し、祝祭的雰囲気を力強く肯定して、私たちをちょっといい気分にさせてくれるからだ。それは退嬰(たいえい)的なノスタルジーというより、もはやお伽(とぎ)話の領域に入っている。
宮崎駿の企画としては理解できるが、この物語を長編アニメに仕上げようという宮崎吾朗のモチーフや人間性がほとんど見えてこない。そこがなんとももどかしい。1時間31分。
★★★
(映画評論家 中条 省平)
[日本経済新聞夕刊2011年7月8日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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