隠された日記 母たち、娘たち
自立願う女3代 こまやかに
娘・母・祖母。女性3代のそれぞれが抱く自由と自立への欲求の声に女性監督ジュリー・ロペス=クルヴァルがこまやかな心遣いで目を向け、耳を傾ける。
カナダで働き、フランスの海辺の町へ帰省した娘(マリナ・ハンズ)は、妊娠したことで今後を考えている。父はやさしく迎えてくれたが、医師として人々に信頼されている母(カトリーヌ・ドヌーブ)が、娘に冷たいのはなぜ?
母に反発する娘は、亡き祖父の家で祖母の日記を見つけた。1950年代、母が少女の日にこの祖母は失踪(しっそう)したのだ。
貧しい育ちだった美しい祖母(マリ=ジョゼ・クローズ)は、その美しさを愛して家庭に閉じ込める祖父との生活に窒息しそうになって、家を出たまま二度と戻らなかったが、そこには秘密がある。日記はその秘密をあぶりだし、当時の人々の偏狭さとこの中で育った母の痛みを、今ありあまる自由に惑わされがちな娘に考えさせた。
母は、祖母の生き方が理解できないまま自立の道を選んで医師になり、その強さが娘の反発を招く。
3代の女たちは、それぞれが自立を願うが、彼女たちが思う自立の違いを見せようと一途(いちず)なあまり、クルヴァル監督が書いた脚本は、かつてのウーマンリブの闘士のように言いたいことを強引に並べてドラマを進めて行く。その一方、男の姿3代をささやかに添える心くばりも忘れてはいないところに、これからの男女の在り方を考える知的な姿勢も見えてひと安心。
厳しい母を演じたカトリーヌ・ドヌーブ自身にも、2人の子供を未婚のまま産み、女の社会的地位が大きく変化していく時代に女手一つで育てた過去がある。それを知れば、男性はともかく、女性のこの映画への感慨はより強いものになるだろう。1時間44分。
★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2010年10月29日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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