瞳の奥の秘密
謎解きと大人の恋愛 巧みに
1970年代後半から80年代初めにかけて軍事政権の独裁が続いたアルゼンチン。多くの国民が犠牲になった「汚い戦争」の開始直前を背景に、凄惨(せいさん)な殺人事件を担当した一人の裁判所職員の姿を、25年後の回想と共に描き出したアルゼンチン映画である。
刑事裁判所を定年退職したベンハミン(リカルド・ダリン)は、小説を書き始める。題材は自分が担当した74年に起こった暴行殺人事件。当時、被害者の夫のモラレスの深い愛情に心を揺さぶられたベンハミンは、独自に推理と調査を重ねて、犯人のゴメスを逮捕する。だが、終身刑を宣告されたゴメスは、政治的配慮から釈放される。
過去の殺人事件の謎解きから、本作は推理ものとして十分楽しめるが、これは物語の縦糸にすぎない。映画は、大人のラブストーリーの横糸を絡ませて展開、物語を膨らませていく。
ベンハミンが小説を書くため相談したのは、今は検事として活躍するイレーネ(ソレダ・ビジャミル)。当時、判事補としてベンハミンの上司に任命された若く美しい女性だった。ノンキャリアのベンハミンが捜査で暴走するのを何かと支え、いつしか互いに憎からず思う仲になる。
そんな秘められた2人の思いを再び浮かび上がらせるのは、殺人事件の結末である。25年間亡き妻への愛を貫くモラレスの姿をベンハミンが知るラストは衝撃的である。
ファン・ホセ・カンパネラ監督は、リアルな演出を徹底し、サッカー場でのゴメスの逮捕シーンを長回し撮影で一気に描くかと思えば、人物や物の陰から覗(のぞ)き見る視点から撮影するなど、映像面でも巧みに工夫。本作は本国で大ヒットを記録、米アカデミー外国語映画賞など多くの賞に輝いた。2時間9分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2010年8月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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